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「丁度、俺の家はユダヤ系らしいの。
俺は逃げ込んだユダヤ人だ。さぁ、引き渡すか人体実験するかって話で、」
ゲーム機を置いたクロエはつかつかとデスクまで歩き、バン、と叩き片手で体重を掛ける。
睨むか、いや、状況は楽しんでいるだろうが少し、挑戦的に見える。
「どう使う?サクちゃん。一歩間違えば政府に殺されるのは、あんたなんじゃないの?」
「そうだな」
「でもさ、」
着物ドレスの帯からスッと、クロエはCzを抜き朔太郎に向けた。
「クロエさん、」と、反射神経で慌て出ようとしたジェシーを、朔太郎は片手で制する。
「こういうユダもいたはずだ」
そしてクロエは一同を見回し「わかるかな、」と、吐き捨てた。
「人はエゴには勝てない。それは、エゴは人間が持つ武器のひとつだからだ。
スターリンは表では無差別を謳ったが、本当はユダヤをカニバリズムだと迫害したんだよ。知ってる?ジャパニーズ」
「知らないな。日本では全ての宗教は個人で自由だ。
しかし、奴隷身分を作った歴史は日本にも…300年ほど存在する。それは、第一次大戦よりも前の話だ」
朔太郎は淡々としていた。
「その奴隷たちには宗教も何もない、なんの基準もなく、ランダムに選ばれた人間だ。
いや、本当は基準はあったかもしれないがだとしたら研究は進んでない。日本には、アンチキリスト、仏陀史上主義の時代もありいまでも大半が仏教徒だという現実がある」
「別に、だからと言ってそれが」
「ここはどこだ?ユートピアだ。お前の宗教観念なんてどうでもいいんだよ。そんなに言うなら母国に帰れ」
ふぅ、とクロエが普通に息を吐けば、朔太郎も「くっくっく…!」と笑って眉間に手を寄せた。
場の空気が少し変わる。
「大層頭の良さそうなことを捻り出したようだが、お前は確かシェークスピアが嫌いだったな」
「…哲学の話なら、フロイトも好きじゃないよ」
「じゃあ神経分析の話をしよう。
人間はイド・エゴ・スーパーエゴから成るとフロイトは言う。
無意識は深層、自我は無意識からの衝動、感情の形成をする。道徳や倫理はそれを追求するものだというのが心理学の基本とされている」
「………」
「哲学は俺の分野じゃない」
「“知性の声は小さい”と?」
「そうだな。ただそれだけだ。言っておくが俺も神は信じてないんだよ。
さて、予行練習に他ならないということで。仕事の役割に不満はあるか?」
皆に向き直った朔太郎に、アレクはそっぽを向くし、ミシェルも真っ直ぐ見つめてくる、カツマタも「ふん、」という態度だった。
クロエは黙って銃をしまった。
「……これから総指揮官は私が勤めます。
シバタ、」
「なんだ」
「貴方に指揮は任せられません」
「…サンセーだわ」
「初動はウチが持って良いんですか?」
「そうですね。後は常に会議の場ではシバタに資料開示をお願いします」
「まぁ、潜入に関しては俺も追求は出来ねぇしな。殺人犯が捕まりゃいいわ」
「では、これにて解散致します。次は一週間後、いまあるものを開示用にまとめてください」
一番露骨に機嫌を損ねたアレクが先に、「じゃ、」と会議室を出る。それからミシェル、カツマタと後にした。
「アレクのはしゃーないわね。私も気持ちはわかるわよ、あんた、反省してないように見える」
「それは捜査に関係ない」
「前歴があるからね」
「FBIやCIAではあることだ、加害者、被害者が捜査に加わることなんて。日本じゃあり得ないけど」
「シバタ、」
ジェシーもどうやら、鉄面皮ながら批判的な声色だった。
「貴方は何がしたいんですか。責任も…何より私は貴方の倫理観には呆れます」
「それこそファッキンナチズムだな」
「驚かせてごめんね、ジェシー。大丈夫、サクには慣れてきてるから。まともな人にファッキンだなんて言うのはちょっと、後で殴るかもしれないけどね」
「そうよ、意外と良好なのよ。ただ、シバタにも全科があるから目を見張るのは褒めるわ、ジェシー。
シバタ、あんたには護衛も割かないからね」
「はいはい」
「さて、行きましょ。私達も書類を作らないと。じゃあねクソ野郎」
そして去る二人に「誤解を生む性格だよねサクちゃん」と、クロエは苦笑いをした。
「よく言われるがお前には言われたくない」
「撃ち殺された方がいいんじゃない?一回」
「別にいいよ、仲間なんてのは」
「あんたも闇が深い。取り敢えず、フロイトはもう少し読むよ」
「あそう」
「シェイクスピアを愛読するなんてと、犬猿してただけだから」
「別に面白くねぇけどまぁ…そうだな、たまには世界を知れ」
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