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 車に乗ってすぐに朔太郎はタバコに火をつけた。
 この書類は最早意味がない。

「…で、どこまで検討ついてんの?」
「んー。テロリストの邪魔な要素第三位まで上がってきたところ。帰ったらクリーンな悪いところを洗った方がいいかも」
「第三位…政治家、FBI、CIAなわけ?しかしカフカだって政治家だ」
「そーだねえ」
「表と裏?」
「そう。ちなみに必要な物第三位が」
「ヤクザとマフィアと…なんだろ」
「“知名度”」
「…ドンパチやるには確かに絶好な場所だな」
「な。資金の流れも洗いたい。彼には養育費が必要なはずだ」
「…本当に人質だな」
「そして人が人質を取る理由第三位と言えば、」
「……うーん、身代金とかの“利用価値”と…もーわかんねぇ」
「利用価値として言うなら金もそうだが、最後捨てられるという利点も人質にはあることで、それは動いてくれなきゃただのダッチワイフでしかないし、手放し方も重要だよな。
 アルビノって何気に売れるんだぞ、風俗関連やら研究、医療機関なら。だがそうしない。もっと価値があるからだろうが、まず彼がアルビノかすらわからない。
 なにより人質なんて、暴動でしか出てこない代物だ。暴動を起こすには怒りが必要だろ」
「うーん」
「まあそれも、クロエが生きていたらの仮定だな。生きていると言う情報操作の可能性もなくはないし。脅しに使っているというのが一番クリーンだ」
「…本当にただカフカは、探しているってのはどうかな。一応カフカなら、引き取ったんだし」
「それも平和主義だったらな。まぁ、全部洗えてないから明日を待とう。警察は事が起こらなければ何も出来ない」
「痛く正論だ、腹が立つほど」

 車を荒々しく発信させタバコを咥えたアレックスは素直にイラつきを見せ、「変なことに首突っ込んだな」と呟いた。

「そんなこといちいち気に触っていたらこの国じゃ身が持たないだろ」
「わかってるよ、」
「俺もテロリストと変わらない。革命には実験が必要で試したくなる」
「お前にそんなことを言わせるために噛ませたんじゃねぇよ」
「犬は犬らしくという心情なんで」
「暫く黙ってろうっさいShut up.」

 全くもってこの同期は素直なやつだ。優しすぎる。それじゃ余計に腹が立つなと、朔太郎は無言で飴をドリンクホルダーに忍ばせてやった。

 ちらっと見たアレックスが「なんだよ」と睨んでくる。

「ヤニギレで頭痛い時用。当たりが余ってたからやる」
「…ハッカって、何?」
「わからん。日本人が嫌いな飴ワーストワンだが、スッキリするよ」
「…あっそ」
「俺のことは尚のこと気にするなアレク。腹立つから」
「…そりゃ悪かったね」

 それから会話もなかった。結局、打ち合わせも何もなくなってしまった。

 さて、クロエ・アヴェリンがどんな人物かをプロファイリングしようと朔太郎は、寝たふりのように目を瞑って考えた。

 彼は一人、あの広い家を出て軍隊に入った。殺伐としている。
 あの弟の思い入れから察するに、朔太郎がアレックスに今抱いているような気持ちをクロエは抱いているかもしれない。
 彼はどこまでカフカの思惑に乗ろうというのか。ただ乗るだけにしては安請け合いだが、それをわかって殺されに来ようというのか。
 …殺されないような人物だったとしたら。見た目に頼りすぎている理論では、彼は虫も殺せないはずだけど。

 革命に必要な人材かといえば、ユーリイは薄い。本当にただの実験材料だとしたら、首謀者は相当なサイコパス野郎だと感じるが、サイコパス野郎というのは大抵、喜びや幸せをひっくり返し怒りや憎しみから生まれるのが大半であるが…。

 もしもこの計画の首謀がクロエだったら、と、ちらっと頭をよぎった。それも、ぶっ壊れるにしては彼では少し薄いな、そこまでしか思い付かなかった。

 ふと。

「アレク」
「んだよ、サク。寝たんじゃ」
「DOって、果たしてなんだろう」
「…はぁ?」
「寝る前にふと過った、根拠のない英単語を言ってみていいか」
「…どうぞ」
「“dropout”というのはどうだ」

 更に相当イライラしたのかもしれない。
 アレックスが何一つ答えないので、朔太郎は黙って寝ることにした。

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