2
僕の音を聞いてください
鳴島幾生《なるしまいくお》
それだけの書き込みを見た。ダイレクトメールだった。
だから私はここに来た。
彼は私の、大学時代のバンド擬きを観たのだと言う。学園祭の、ちょっとしたやつだった。私はそれで、大学内で話題の人物だった。
しかしそれは、もう4年も前の話で。
まさかそれを見て、そんなコメントが今さら来ようとは思わなかった。
しかし私は。
「I'm sorry.I hate myself.
I hate my music voices」
こんな歌詞を書くくらいに自分の声や自分というものが本当に嫌いでだから音楽をやっていた。だから下手くそな英詩だった。だから。
“君の声が僕の胸を打つんだ”
なんていう胡散臭いクソバンド、観てやろうと、でもその前に聴いてやろうと。CD買って。
移動中まで聴いてやろうとして、そいつのSNS追跡しながらイヤホンの、Lを耳に差し込んだら驚愕だった。
こんなクソバンドに。
ベース音なんて目立たないじゃないか。
耳を疑った。
疑って正解だった。
難聴を患っていた。
原因は不明だった。
その時初めて知った。
音がないことへの、恐怖を。
「いやぁぁぁぁぁあ!」
駅でシャウトする私の声はやはり嫌いだった。
ホームに倒れ込んで次に見たのは精神科医で。
そこにいたのが、左利きに自分の髪を触るのが癖な40代の男で、ギター担いでて。
笑顔が優しい長身の。
私がSNSでストーカーしまくって行きもしないライブハウスをうろちょろしていた相手だったときの衝撃ったら、
そう、このセックスより衝撃的だった。
そしてどうして。
「 」
聴こえない。
あんたの声が、聴こえない。
いや、本当は少しだけ、聴こえるけど。
「ねぇ、どうしてそんなに」
クラゲみたい。
配水管に流れていく浮遊した意識みたい。
- 7 -
*前次#
ページ: