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 素直に眠ってしまった同居人の少し捲った腰辺りの白い素肌が気になった。
 背骨から見える、横っ腹に近い位置にある歯形は歯並びが悪い。

 あまり自分を大切にしないやつであることは、出会って数年でわかっていた。出会った瞬間の、こめかみに銃口を当て微かに震えていた指先、気が強くも泣きそうに潤んだ青年を思い出す。

 生きたいと願うのかと、あの政治家に銃を向けたのだ。

 生きたいと願うどこかで絶望には行き着いている。それをあの、黒ではないヨーロッパ系の茶色い瞳から湊は読み解いたのだ。漣のような揺らぐ網膜は、そのくせ嘘から抜け落ちたような、自分を射る瞳で。

 まるで母国の、自分が生涯を誓った筈だった愛する、黒目を持つ女を思い出してしまったから。

 背中、茶色い黒子がある脇腹辺りの噛み痕をなぞれば「んん…」と迷惑そうに漏らしながらうつ伏せで寝るカノンの眉は寄せられている。

 全くしょうもない。お前のキングオブフリーダム性癖には見上げるよと。
 しかしこれも確かに生きている証しかもしれない。

 恐らくぬるい生活に魂のようなものがただれていたんだ、互いに。苦し紛れになにかを、掴もうとしたから。一生懸命生きている。そう感じたら、そのまま咄嗟に銃口を掴んで温もりを感じる以外になかった。

 あのときお前は驚いた表情だった。
 悪口か救いかはわからないが「Jesus」と言った気がした。もしかすると英語なら「genius」と言ったのかも知れない。One's evil genius.これならばそうか、「てめぇは死神だ」かもしれない。

 それが一番、正直湊の中で納得する英訳だった。あの日銃を下げカノンにハグした時、少し間をとってから背伸びをしてきて手についた腰は細く感じた。わざわざ耳元で囁いた一言は微かで聞き取れなかった。

 しかしあっさり日本までついてきたあたり、余程彼は母国の理不尽に疲れていたと見える。Jesusかもしれないな。強烈に偏ったキリシタンに侵された挙げ句家族は惨殺されたらしいし。
 まぁ正直どうでもいい。

 どう歩いたってけしてスピードは等しくならないのだから。神の子と悪魔では釣り合わない。だからこそ、自分達はやっていける。

 子供の頃を思い出したのかもしれないな、お前はこの一件で。
 狭まった世界から見た日本は、果たしてその茶色の薄い瞳にはどう映るのだろうか。俺が見せた世界は、酷く汚れているが、案外大差ないだろ、カノン。

 どこへ行っても悲しみは終わらない。

 湊はまたカノンのニットを戻し、考えたがなんとなく、有り余ったベットに狭く、隣に寝転んで天井を見上げた。

 彼女はあの熱い視線の先に、この白い天井を見ていたのかと、湊は考える。
 engageが嵌まる前の、魘されるような甘さで言う朧気な「おいで、」が記憶を掠める。いつだって君は綺麗で、だけどどこを見ていたか、俺はわからなかったよ。

 そうだ、明日は一年に一度きりの日だ。
目を閉じれば甦る、
いや
妄想の類いの小さな手。それほど自分はあの手を取らなかったと気付く。

 まだまだ幼かった。

 左手を翳してみるが、天井と、銃を添える左手しか視界にはない。|視界《それ》を遮るようにそれから瞼に置いては、己へ嘲笑の念ばかりが沸いてくる。

 くだらないことを考えてる。
 甘んじてこの、報われなさを受け入れたのだから、くだらないこと考えてないで早く働けば良い。とっくに両手は血塗れなのだから。

 湊が左手の甲で瞼を覆い、少し肩を一定のリズムで薄く揺らして寝てるのを確認してからカノンは溜め息を吐いた。

 普通は隣で、しかもこんな俺の隣で寝ないだろ世間知らずと湊に対して心で思ったが、
なんだか、まぁ。
 賢者タイムらしいなと、少しは慈悲を持ち、仕方なく手元のLEDリモコンで灯りをきって、自分も暗闇に紛れて寝てしまおうとカノンは考えた。

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