4
今年のFather's Dayは終わったらしいな。
今年で終わりかもしれない。毎度日向は、この日だけは帰ってこないのに。
電話が切れて間貴志は切山を見つめた。切山も恐る恐る間貴志を見つめている。
目が合ったからには告げよう、「仕事だよキリヤマくん」と。
「え、」
「豆腐のやつ、材料買ってきて」
「いや、待ってわかんないし」
「俺もわかんないし」
「え、何言ってるかわかんないんすけど」
「俺もわかんないし」
「えー…」
ちらっと切山はパソコンを見つめる。
間貴志もどうやら見つめたらしい。
間貴志は「仕方ないな」と言ってタバコを持って立ち上がりデスクに座った。パソコンが立ち上がるまでにタバコに火をつけ、それからカタカタと瞬時に検索していた。
少しすれば足元の印刷機から一枚の紙が出てくる。
「ほれ」と言って切山を見ずに紙をヒラヒラさせた間貴志に、溜め息を吐きながら切山はその紙を掴んだ。
「これを買ってきなさい」
「…財布は?」
「多分そこの棚にあるよ」
再び溜め息を吐いて切山は棚から二番目の、
あの銃が置いてあった場所にある黒い財布を手に取った。
これが仕事かよと立ち上がれば、間貴志が行儀悪く椅子に片膝立て、やはり腕を投げ出すようにしてタバコを持っている。
「ハンバーグに豆腐入れようとか、大丈夫かよ日本人。ケチ臭いなぁ」
「お子さんいらっしゃったなら、まぁあるんじゃないですかね」
「そーなの?」
「なんとなく」
「ふーん」
うわっ、すっげぇ興味なさそう。
しかし間貴志はふと、膝を抱えては思慮深く切山を見つめて言う。
「キリヤマくんって小さい頃何食った?」
「え?」
「ついでだから作ってやるよ。暇だし」
「うーん」
意外と優しいじゃんこの変人。
「…ちなみに間貴志さんは?」
「別に」
何それ。
会話噛み合ってないけど。
「…じゃぁ、なんとなく味噌汁で」
「あーね。日本の文化だね」
「間貴志さん、聞いていいかわかんないけど何人ですか?」
宇宙人ですか?
「フィンだよ」
フィン?なじみない。どこだろ。
「ほら早く行ってきて」と間貴志に言われ、まぁいっかと切山は家を出る。後に「フィンランドか」と思い至る。
間貴志はその間、暇だし覚えたプリンをまた作ろうと思い至った。
前回「卵焼き食ってる気分」とクソ甘党に言われてしまった。それってプリンじゃないじゃん卵焼きじゃんと闘争心が沸いた。
よし作ろう、マジで甘くて吐くやつ。俺食わねぇしと立ち上がり、キッチンに立っては冷蔵庫を明けて卵を割る。三温糖は前回の倍。いや、もっと入れるべきだアイツは味覚障害だしきっと。
結局卵2個、1個分につき大さじ四杯。流石に甘党味覚障害野郎も食えないかもなと思いながらも、子供のいたずら感覚だ。牛乳と混ぜてはカップに流し込んで蒸した。
子供の頃何食ったかなんて。
答えられはしない。まともに食えない貧相な子供だったさキリヤマ。忘れちまったけどな。
凍えて生きていた頃を思い出しそうになり、間貴志は思考を止めた。
遥かに今の方が生きているかもしれない。誰かに飯作るくらいには。
ある日、住んだ先のガキに雑巾の水が入ったバケツを蹴っ飛ばされ、ぶっ掛けられたのを思い出した。あのクソガキ。内乱でどうせあんな金持ちの家なんてぶっ壊されただろうがホントに気に食わないガキだったな。富裕層だからってみんな調子こいていた。
家族が内乱で死んだ日を思い出す。あそこは血まみれだった。泣いて凍えた自分を拾った金持ち野郎はショタコンだったし。
ろくな思い出はなかったが、それも今や捨ててしまった。
なんで生きてるかなんて明白だ。生き延びてしまったからだ。
そう考えたらこのプリンの甘さはあの新人には気の毒かもしれない。でもまぁ、仕方ないな作っちまったし。
プリンを蒸してる間、その場に体育座りをして間貴志は考える。自分が今していることは、間違っても平和ではないが、ここは平和な国だ。
いつか誰かにまた殺されたら、一体走馬灯には何が流れるだろうか。
血かもしれないな。カタカタいう火を前にして間貴志は踞った。
- 25 -
*前次#
ページ: