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『ホントにいるんだな、あんた』
「…はぁ…はい」
『なんだ、予想してたより声も若いし頼りないんだな。あんたホントに“アルカナ”か?幻想じゃないよな?』

 ケータイ電話を片手にし泡沫のような返事を繰り返す切山は、流石にそろそろ自分では対応出来かねないと、ソファで編み物をしている請負人に視線をやる。

 「そりゃ、シャブのせいじゃねぇのか」とボソッと言った日向に「ふっ、」と、パソコンを動かし始めていた間貴志が吹き出す。

 当て馬になったような気分だった。

「はい…幻想じゃないです」
『あんたそんなんでよくこの前牧島をぶっ殺したな。本当に大丈夫なのかぁ?』

 「お前がな」「話が長いな」と二人ハモっているのにいい加減、だったら自分で出れば良いのにと切山はやけになってくる。

「…取り敢えずご用件ってなんですか」
『はぁん!?』

 怒鳴られた。
 日向と電話先の相手が「殺しに決まってんだろ」とハモる。
 そうなんだけど、確かにそうなんだけど。

「…まず名前聞こーよキリヤマくん」

 ボソッと、側で手を止め腕組みしていた間貴志が助言をくれた。確かに。
 視界に入る日向がついに編み物をやめてイライラしたように切山を睨んできた。

「えっと…お名前をお伺いし」
『|国立組《くにたちぐみ》やぁ、』

 おおっと、どのヤクザだかさっぱりわからん。

 「どこだそこ」と日向が呟き、間貴志がパソコンをカチャカチャやり始め秒で「名簿にあったよ」と日向を振り返る。間貴志のパソコン画面には「シャブリスト」とあった。

「国立組の、総長さんでしょうか」
『そうやぁ、もうすぐな』

 漸く側までやってきた日向に間貴志が「こいつかこいつ」と指している。切山もパソコンを眺め、

「えっと、|大原《おおはら》氏か|井頭《いがしら》氏とお見受けいたしましたが…」

 間貴志がパソコンを差す。
 
「どうやら大原氏は年齢が38とお若いようですので、声の具合から判断して|井頭《いがしら》|賢《まさる》氏でお間違いないでしょうか」

 「名前負けしてる」と言う日向に間貴志は特に反応をしない。多分“賢”の漢字の意味がわかっていないのだろう。

『お、なんだ本物だな。で、話が進まんから用件だけ言うが|竜崎《りゅうざき》組の組員、マシバケイイチいう男を殺っちまってくれ』

 かちゃかちゃ、かちゃかちゃ。
 竜崎組の名簿が開かれる。

「…マシバってどういう字ですか?」
『真実に柴や。お前漢字読めんのかいな』
「いや、竜崎組に見当たらないのでお聞きしたんですけど」
『はぁ!?んなわけあるか、』

 日向がじろっと見てくるので「わかりました、理由をお聞かせ願いますか?」と訪ねた。

 切山を差し置いて間貴志はカチャカチャカチャカチャとファイルを様々開いていく。それぞれの関連組織、そして“真柴圭一”はどこにも該当しない。

「えっと、真柴圭一は竜崎から送られてきたスパイで総長の国立一郎氏を殺害し逃亡したわけですね」

 間貴志にも聞こえるように切山は言っているのだろうが生憎それは聞き取りにくくも受話器の向こうからがなり声はガンガンに聞こえている。

 資料をざっと見ても国立と竜崎はどうやら互いに少々ぎくしゃくしているのがわかる。取引相手の奪取や繋がりのある組織、だがどうもここ最近はそれらもうまくやりくりしていそうだったが。

「あ、」

 ひとつ、気がかりなものを見つけた、そしてその先に真柴圭一の名前があった。

「…この中国あたりの保険屋ってのは、所謂保険金会社でしょうか。こちらは竜崎とパイプがありそうですがそこにだけ、真柴の名前がありますけど」
『そこまで知ってんのか。そうだ。竜崎の組員だからな』
「…これは殺す意味があるのでしょうか。自殺工作をしようが普通に殺そうが、竜崎の取りになりませんか」
『いや、』

 井頭はあらたまった間を取った。

『勝算あんねんな、チャイナは安いからな』

 …何故また企業舎弟なんかを、しかも、中国だなんて。

 日向はふと、手のひらを上下に降り、切れの合図をした。

「…折り返し電話しまーす」

 相手の返事を待たずに切山は業務用のケータイを切った。

「さて?」

 話が全く見えてこないと日向を仰ぐが「微妙だな」と言った。

「全く見えてないんですけど、俺」
「不透明ではあるねぇ。チャイナより先にやっちまおうってことなのか」
「ん?」
「どうかな。
 こいつは次期総長だと吹いた。国立一郎を殺したのは本意だったとして国立が何故こいつを殺すのかと言うところだな。単純に行けば怨恨だがこの男はどちらにも籍がない。
 上手くすれば使い勝手が良い、恐らく真柴を国立が抱き込んだんだろう。だが、金掛けたのは竜崎だ。竜崎がこの男を切っていたとしたら、竜崎が始末すると考えるよな、普通。確かにチャイナは10万くらいで人ならバラすし経済的だ」
「あぁ、なるほどね」
「ん、ん?」
「クニタチってシャブだよね」
「そうだな。見事にこの男が掛け橋になってるということだな」
「う〜ん」
「ナメられたもんだな」

 日向が呟いた。
 チャイナとシャブ。真柴という男、どう考えても当て馬でしかないのにキーパーソン。それほどアホなのか、それともなにか保証されるツキを持っているのか。

「…どちらのブラフが勝るかな。金にはなりそうだ」
「このままやるの?」
「…役割分担を決めようか。
カノンは竜崎、切山はこの保険会社に行って。多分よくわかるぞ」
「え、チャイナ語出来ませんしそんな意味あるんですか」
「お手並み拝見だよ。俺は国立かな」
「キリヤマくん、」

 ふと、間貴志が非常に楽しそうな笑顔で言った。

「シグザ、いる?」
「え、」
「…素直に竜崎へ行ってくれカノン」
「どゆこと」
「ゴウジョウなゴシンキさんに武器は向けちゃいけないってこと」

 切山にはイマイチ掴めなかった。
 大航海するような気分。

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