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「…そんで?」
対峙していた。
日向は国立組の事務所にて、次期総長、井頭賢の前に腰掛け、手を組んで前のめりにガン飛ばしていた。
まわりは殺気立っている、当たり前だ。
最早殺し屋、マフィア、アサシン。だが謎の男で噂がまことしやかにされている幻想のような存在、通称“アルカナ”らしき男がそこにいる。
所属、姿すら知っている者がいない男だが確かに、目の前にいる男の瞳は「属性でない」。人を殺す目をしているのに、信じ難さもあるが、少なくてもこちら側だと誰もが、わかる。
「…そんな訳でその裏切り者を処分して欲しいんやけど」
「真柴圭一はお宅にも竜崎にも在籍していない。だが、竜崎の舎弟である「太陽保険」という中国の保険会社に多額の保険金をかけられ入会していた。
竜崎から殺せと言われたのか、それとも知らなかった?
そんな訳ないよな。だがそこまでしなくても組抜けなんて竜崎が処分するだろ。アンタがわざわざこんな、いるかも噂程度な俺に頼む理由が見当たらない」
「見せしめ」
「そのわりにはいまや真柴は人質かな?組長殺したときに何故殺さなかったかって、手なづけたからだろ?やらないよな普通。
そうまでして逃がしたわりに殺したい?動機が不透明だ」
「…まぁ…」
「真柴も正直そんな危ない橋を渡るとも考え難い、金を握るにしちゃぁ、アンタらの方が儲けはないよな。
何握ってんだかな、真柴は」
「…何が言いたい」
「金が貰えりゃいいんですが、貰えればの話だ。
俺はシャブや10万程度じゃ殺しはやらない。そんなの、あんた、中国あたりのマフィアに頼んだ方が安いんじゃないのか?あいつらは人じゃねぇからな。
ところで、組長の死体は誰が処理したんだ?」
…静かだが獰猛な目をした男だと井頭は感じた。
この男、バカではない。
一歩間違えれば恐らくここは壊滅してしまう。
「…山ん中に決まってるやろ」
「なるほど、お宅、まだ中国マフィアとの交渉は済んでいないんだな。じゃあ、竜崎の弱味は真柴にある、と言うことで?」
「…あー、」
観念したように井頭は降参のポーズで手をあげた。
「…負けた。
真柴が竜崎の戌だということはお見通しだな」
「…中国マフィアを抱き込むには真柴に…。
ジャブでも握らせた、真柴には裏切りがないように、そうだなぁ。
竜崎としては生かしておく必要が一ミリもないだろ。保険金でも握ってんの?
真柴にはバラしたことにして海外逃亡でも促した、いまや真柴はどちらでも殺してしまいたい人物だし、飼い慣らそうとした。ジャブ取引を直接中国マフィアと結んでしまえばいずれお宅に寝返る、マーケット規模拡大も可能だ。
それが済むのは現物を見せるしかない、あわよくば保険金も自分らに舞い込ませる、という話をつけた、といったところまで組み立てたが」
「…流石だな」
甘いな。
「…甘いな井頭さん。
それは真柴が生きてなければ話にならない」
「だから自分の手元でこうして」
「俺は真柴を殺すよ?頼まれたら」
「だから、」
「…話にならない。アホか。
ワケわからんところに殺しを頼めば確かに、隠蔽は楽だよな。真柴はまぁ、アンタとしては殺そうが中国に逃げようがどうだっていいのか。
だから竜崎より先に俺らに頼んだ、けどね、無い袖は降るべきじゃないな。俺ならシャブと金を両方握らせてみるかな、中国マフィアなんて。あいつらに日本人作法はいらない。権力に付くだろうしな。
さて、交渉不成立かな。アホ臭。俺はバラされたくないから中国マフィアも殲滅するよ?」
「え、」
「払えるなら別だけど。そうだな、真柴一人500万。無理なら終わり。
喧嘩売る相手間違ってんだよ、ヤクザ風情が」
さてと。
無駄足を踏んだ。
「…残念だけど竜崎さんと話をつけることにするよ、こんな貧乏な組に用事はないわ」
「…は?」
「“業務提携”だよ。あっちの方が取れそうだし。あんた、頭張るたまじゃないんじゃないか?」
そう言って日向は立ち上がる。
それに「待てよ」と井頭は言うが「誰に口効いてんだよ」と、翳されたのは。
「…、」
手のひらにあった。
自分達は存在くらいしか知らない。
手榴弾だった。
「…オーケィ、オーケィ…」
「そう?じゃ、」
日向の背中に唖然とした井頭はその場でスタンと、ソファに座る。
「総長、」と部下達が言うのに「…やられた」としか言いようがない。
「…ヤクザ以上に厄介だ。運が悪かった。
犬飼えるかなと、思ってたんやけど…」
アルカナ。
二度と聞きたくない単語だと、素直に「…竜崎に電話入れとけ…」と井頭は命じた。
「…シャブを全部流す覚悟だな…。ウチを潰さんためにな…」
騒動がバレたら終わっちまう。
本当に厄介な、中国マフィアのような男だった。ハイエナやら、そんな類いの。
悪いことはするもんじゃないと、井頭は肝に命じたのだった。
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