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 ボスのしゃくりひとつで残りのチャイニーズが切山を囲んだ。
 「ニーナライ」と言うボスの一声で一人、難いの良いチャイニーズが切山を後ろから羽交い締めにし、一人、左に立った歯の欠けたチャイニーズが手を出し、右の吊り目のチャイニーズがトカレフを蟀谷に向ける。

 素直に切山が羽交い締めから苦労して左にシグザを渡そうとするが、そもそも奪い取られる。奪い取ったチャイニーズはラリった視線でシグザを舐め回すように眺め、スライドを引いた。
 切山がそれにびびっている最中、「クィシェーファ」とボスが言い切山は漸く解放された。

 くいっと指でボスがシグザを持ってくるように指示すれば、シグザを持った男がボスへ渡す。
 一通り眺め、「何処ノ?」と切山に訪ねた。

「初メテ見たケド」
「…シグザ…デス」

 シグザなんだっけ。名前を忘れてしまったし、出所なんて知らない。切山自身もその銃はヤクザ業で出会うことはなかった。

「シグザ?…えっと、シグ、サウェー?ピーに、に、ろく?」

 左面「SIG SAUER」と右面「P226」をくまなく眺めながらボスは片言に言う。

 ヤバイ。

 型番が消えた拳銃でない、そんなものヤクザが末端に持たせるわけもない。切山は少しずつこの状況が悪化していくのがわかった。
 探されているなら、見透かされるな、殺される。

「コレ、ドコで?良いヤツダヨネ」
「…ちょとした…」

 初めて日向にあった日を思い出した。

「ば、バーで…」
「ケーサツ?軍?」
「いや、違」
「ハハハ、」

 ヤバい。

 ボスがシグザを切山に向ける。

「パラベラムデスかネ?」

 とか言いながら試しにと、切山の足元に銃口を降ろし、一発撃った瞬間だった。

 発砲音と共に右の男が腹を抱えて倒れ、左のチャイニーズが腰を抜かした。
 ボスも「ああっ!」とシグザを落とし、嘘のようにソファでワンバウンドして腕を押さえていた、どこから…親指か、血を流している、飛んだらしいと切山から見て取れた。

「あああぁあ!」

 腹を抱えて悶え、暴れているチャイニーズを見ればわりと致命的に血塗れだった。

 …なんだこれは暴発か。いや、弾は男に当たっている、なんだ、これは。

 難を逃れたが「シェー!」と叫ぶボスに従うように左の、腰が抜けてしまったらしいチャイニーズが、体制を崩した際に落としたトカレフを拾おうと床を這いながら「しゃ、シャオディオニー!」と威嚇をしているが切山には言葉がわからない。

「え、何、」

 状況把握は不可能だった。
 後頭部に打撃を食らったとも判断が出来ず、脳震盪に切山は倒れた。
 泡沫に辛うじて見えた灰皿を振りかざすチャイニーズ。それから意識は飛び──

 次に起きたのは痛くて見えないほどのライト、医療台のような場所、目が慣れて。
 
 まず本能が暴発する。
 
 「シンレ」と、ボスが出刃包丁を持って、人とは思えぬ絶対零度の恐ろしい目で切山を見下ろしていた。出刃包丁を持つ右手の親指がない。
 そして何より鼻を付く、クロロホルム臭。

 怖い怖い怖い怖いを遥かに越える、麻痺だ。
 悪寒がする冷や汗がどっと吹き出る、ただただ身体、鈍った頭、もうどこだか考える余裕がない、呼吸も、過剰。

 チャイニーズマフィアだった。今更だ。10万でバラす。ヤバいと本能で暴れても「ん゛ーっ!ん゛ーっ!」口は塞がれ手足も拘束されている。

 …死んだ、これは。

 怖い怖い寒気が止まらない、吐きそうですらある、ヤバい身体が悪寒に麻痺してくる。

 切山は恐怖で失神してしまいそうだった。だが、しないのが現状である。

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