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ユカが純粋な目で「これは何?」と聞いてくる。返そうと男に押し付けようとすれば、
「消せねぇよ。あんた、まともなことしてねぇだろ」
と笑った。
麻薬は落ちる。殴りかかろうと男の胸ぐらをつかみユカの手を離せば「はい、暴行罪」と言われて拳が止まった。
「ただ運べばいいんだよ。ソライユだってまともじゃねぇ。下手すりゃ、あんたらなんて匿ってくれるかもな」
…それは。
「…僕が何をしたって言うんですか」
男は無理に僕が掴んだ手を振りほどき、落ちた新聞を冷たく見下ろした。
「この辺にアジア人なんて余程の世間知らずしか来ないんだよ。ボランティアだと思って、運んでくれよ」
なるほどな。
今朝からの街人の、思い返せば昨日よりも露骨な態度。そういうことか。
僕は早ければ今頃指名手配でも、されてしまっているかもしれないが、ここは狂った街のようだ。それくらい、普通にあることなのかもしれない。
僕は黙って落ちた新聞紙を拾い、その紙に包まれた何かもその新聞で包んで拾った。
「行こうか、ユカ」
そしてユカの手を握り、男に背を向けた。
腐った街だが僕も腐った獣になった。
そうやって守られるなら、ユカを守れるなら、僕は何処へだって飛んで行くんだ。
「ケイ」
ユカが小さな声を発して僕を呼ぶ。怯えたような、しかし美しいユカを僕は抱き締め、「ユカ」と、髪に鼻先を埋めて震えを押さえ、髪を鋤いてぐしゃぐしゃにする。
傷付くことはもうないんだよ。
逃げ出す場所も、もうないんだよ。
でも、僕はもう君を離さない。
不安を打ち消すように、僕は側にあった茂みにユカを連れ込んで押し倒した。
髪が草に散らばって、涙の網膜に包まれた君の瞳に躊躇したけど、君は笑ったのか、歪めたのか、恐らくその口角は微笑んだんだ。項に伸びた綺麗で壊れそうな腕に舌を這わせれば、今度ははっきり笑ってくれた。
僕も彼女に微笑んで、笑って、足から指を這わせる。小さな、何を言ったかわからない、声にならない君の吐息を感じて、下着を剥ぐように足へ絡ませた。
生温い子宮の中で、僕たちはいつだって一つになる。君の体温を感じて、声も呼吸も君とは同じ感度と温度で。君は、僕の血液だ。もっとそう、歌って。気が狂いそうな僕を焼け墜としてくれよ。麻酔のように。
服で擦れて昨夜の、背中の傷がむず痒い。それだって、そう、光が溢れ出すような現象なんだと、僕は欲望という麻酔を射って感じる。いつまでも一つになりたいけれど、僕の頭は真っ白に、彼女の温さから離れる。
彼女から光が溢れ出す様をみて、酷く疲れたなと感じた。天使の羽根はまだ、むしり取ってはならない。
衣服を直して立ち上がり、「ユカ」と手を差し伸べる。
恥じらいなのか汗ばむ無表情のまま、ユカは起き上がり、僕の手を掴んで立ち上がった。
「行こう」
俯いて頷いた彼女の手を引いて、僕たちはカレーの方へ歩み始めた。
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