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 男はわざとらしく翳した新聞紙を広げ、

「ベテューヌ、イグニス教会跡地でドイツ人のアムス・シュナイダーが本堂で下半身を露出した常態で刺殺されているのが発見された。刺し傷は心臓付近に数ヶ所あり、即死だった模様。争った形跡はあるが金品は強奪されていなかった。しかし、アムス・シュナイダーからは女のDNAが検出されている。
 イグニス教会は近々、ボランティア教会から再建の話もあったようだ」

 あの男の名前を初めて知った。

 アムス・シュナイダー。つまりは仕立て屋か。

 ドイツでは名字に職業をつける風習がある。シュナイダー、日本語で言えば仕立て屋。それほどの身分ではない男だ。

 嫌な予感がする。

「パー・ド・カレー県警は殺人事件として捜査を開始した…と。
 あまり書かれてないが、ボランティア教会で揉めたのかねぇ」

 男に答えず、僕はユカの手をぎゅっと握り、汗ばんでいたことに気がついた。
 それはつまり、警察が僕の身元に行き着いていてもおかしくないだろう。
 早く去ってしまおうと男に背を向ければ、「この団体さぁ、」と、声をデカくして呼び止めるように言ってくる。

 ユカが僕の手を少し引いた。
 やはり、ユカも気になるようだ。

 再び振り向けば男はタバコをポイ捨てし、ショルダーバッグから何かを取り出しては新聞にくるんだ。

「どうやらアジアの団体らしいんだわ」

 …何故。

「物騒な地域ですね」

 睨みながら吐き捨てれば、男はにやけ面のまま側まで来て、その新聞を押し付けるようにして言った。

「カレーのソライユ教会なら、きっと物騒じゃねぇよ、お兄さん。
 少し遠いから新聞でも読んで渡りなよ」

 新聞を開けばなるほど、隅の方だがわりと目につくようにそれが書かれている。これは、カレーからドイツに亡命した方がいいのかもしれないな。
 そして新聞には更に紙に包まれた、恐らくは麻薬か何かだろう物まで付いてきた。男をまた睨めばニヤリと笑い、

「中身は食いもんじゃないが、あんたもどうやら荷物がないな。腹の足しになるもんでも、神父様がくれるだろうよ」
「…これを運べと言うわけですか」
「別に捨てても構わないが、俺もいま身軽だからな。一般市民としてそうだなぁ、生活保護でも頼みに行こうかなぁ、」

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