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 いつかこんな教会で僕はユカと一生を手に入れたいと思った。

 カレーのソライユ教会に来てから僕は、礼拝堂で未来、祈り、破滅を捧げる。僕が手を組んでそうしている隣にはユカがぼんやりとどこかを眺めている。

 ソライユの神父は自分を「ラミア」と名乗った。ギリシャ神話の怪物なんだそうだ。
 彼は盲目だった。それ故に臭いで人柄を見分けるそうだ。

 サントメールの海岸から数日後、雨に降られて濡れ鼠になった僕たちを受け入れてくれた。
 それから3日、僕たちはここにいる。

「この雨が止んだら」

 部屋に戻りなさい。そんな干からびた声がする。
 不眠症であるラミアは雨の音が嫌いらしい。
 眠れない僕たちがこうして夜中に礼拝堂へ来れば話を聞かせてくれる。

 昼間は大体ラミアの姿を見ない。太陽に、自己で醜くなった顔を照らすのが嫌なんだという。

 僕にとってそれだけでラミアは、美しく強い生き方ではないかと思えてならなかった。なにも誇示することのない、怪物よりも天使だとか、そんなものだと感じた。
 神に遠い存在の僕たちに彼は近いような、そんな気がしている。

「アレ」

 ふと飽きてしまってふらふらさせた足をピタッと止め、足元を指したユカがポツリと言った。
 足元には白い、ハツカネズミの死骸が転がっていた。

「指を指してはいけないよユカ」
「どうしました?」

 干からびた優しい声で言う神父を見上げるユカの純粋な青い瞳と空洞な神父の視線が絡む。
 神父は柔和な笑みでユカの頭を撫でては「待ってなさい」と、祭壇に添えられた白い、甘ったるい臭いを放つ花を千切ってそれをネズミの死骸に添えるのだった。

「ガーデニアには“優雅”“幸せ”そういった意味があるのですよ。
 Mr.ケイ。君の国ではこの花は咲くでしょうか」
「…わかりません」

 隠喩なのか、なんなのか。
 感情もなくユカはその花をネズミから蹴飛ばしては踏みつけ、すんすんと、花の臭いを嗅ぐユカの無邪気さを横目で見た。

 ふいっと、そのまま先に礼拝堂から立ち去るユカの変わりに、「すみません、神父さま」と僕は謝罪を述べる。

「いいんですよ、とても心地のいい香りだ」

 と、ネズミの死骸を拾って掌に乗せる神父にまた頭を下げ、僕はユカを追う。

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