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「ユカ」

 月の光とステンドグラスは水の中のように綺麗で。
 振り向いた彼女は空虚に笑って言う、「生まれない方がマシね」と。

「いつか死んでしまうなら」

 足が止まってしまう。
 僕はどうしてその孤独な微笑がステンドグラスに染まる髪を綺麗だと感じ泣きそうになるのか。
 神聖な気持ちに浸るそれには狂気かもしれない。僕はその欠落をぼんやりと、いっぱいに満たしたいと言う愛情が沸くのかもしれなくて。

 部屋までユカを引っ張っり戻っては無性に掻き抱いてしまうのだ。心を亡くした君はいつか水に還る。君はその水の中で呼吸が出来なくなる。そして僕を求めるのかもしれない。

 いつまで僕が呼吸をするのか。汗ばむ君のハツカネズミのような瞳だけが僕を熱くするんだと、毎晩君に溶ける度に考えるんだけど。

 君が僕を寂しい目で見るのは、朝方なんだと、そのまま寝てしまう僕は、いつも君の身体を抱き締めているんだ。

 ぼんやりとただ淡い絶望的なその愛をただ、ただ手に入れたかった僕は、どうしてだろう、ここに来てから虚しいような気がしている。

 先なんて僕たちにはないのだと、まざまざと見るような気がしてしまうのは、太陽に永遠を見るからか。
 その永遠が溶けてしまったら。

「僕を、」

 今日もまた太陽は出ないまま、君はいつも通り、ダルそうにベットからおりてはワンピースを着て一日を過ごす。

 いつか永遠に君と共に一緒にいたいと思うのに。
 君は美しい。ハツカネズミの死骸に似ている。
 だけど、この僕の世界ではそれだけが綺麗だと感じるんだ。

 ソライユ教会は雨のせいか、どこかじめっとしている場所だった。

 僕たちの安穏とした安全なそこでの生活は長くは続かなかった。
 5日目の朝はよく晴れた。僕はユカの白く滑らかな胸で目覚め、まだ小さな鼓動に、泣きそうなほどの幸福で目覚める。
 起こさないようにそっとベットを一人抜け出して、用意された部屋のベランダに出てみて異変に気が付いた。

 外には一台のパトカーが停まっている。“Pas-de-Calais”と表記されたそれに、あの海岸での男の話を思い出した。

 その日は晴れていた。

 永遠を望んだ僕の未来が、熔けていくように灼熱な感情が沸き上がり、僕はその場にしゃがみこんでは嗚咽を殺した。
 ふと背後に気配を感じて振り返れば、彼女は渇いたような、そんな笑顔で僕を見下ろしていた。

 そうか。
 僕らはもう、傷だらけで。壊れてしまったのか。
 不完全なままの僕らは、完全になんてなれないんだ。

 そのまま手を繋ぎ、僕はユカを連れて教会を抜け出した。

 あてはどこにもない。ただ彷徨うだけの未来は絶望的かもしれない。けれどこれは僕の愛だ。
 傷口を縫うように手を繋いでさ彷徨う僕らには、これ以外何もない。

 そう、君を愛で浸せるのは僕しかいない。僕にその温い宇宙を魅せてくれるのは君しかいない。僕は君をずっと永遠に愛せる。
 それ以外、何もないなんて…。

 ただ手を繋いでいるだけの僕らはまた、そのために彷徨う。

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