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「どうして」

 君は、教会を抜け出した時に僕へそう言った。
 後ろに着いてきていたユカを見れば裸足で、青い目は怯えたように揺れていた。

「ユカ…」

 僕はユカをその場で抱きしめる。すっぽり僕の腕に収まるユカは暖かい。そして君は言う、「ケイは誰なの」と。

「僕は君の、」
「私は貴方を知らないの…!」

 何を言っているのかわからない。

 空虚な君に僕の記憶をなぞればいいだけだろう。しかし、ここ最近疲れているのかもしれない。僕はただただユカの綺麗な髪をすき、「疲れたね」と耳元で囁く。

 ユカの肩が上下していて。
 僕は君を泣かせたいわけじゃないんだ。でも、僕も君も完全じゃない。

「ユカ」

 やっと手に入れたあの、少女は。

「ユカ…」

 僕の希望で、愛で、宗教で、光で。
 僕はそのために生きているのに。
 ふいにこうして太陽の下で揺れている。僕の永遠は君に熔けていくように。

「僕が完全に熔けてなくなったときは」

 そう。

「僕を殺してくれないか」

 永遠に。引き裂いてくれないか。

 驚いた顔で見上げたユカは、やっぱり泣いていたようで。
 その涙を拭って舐めたらしょっぱくて。僕は君のように美しい人間じゃないとふと、感じた。

「行こう、ユカ」

 僕たちに与えられた未来まで、
 それがどこにあるかはわからないけど。
 また手を繋いで歩き出す。不完全なままの二人で。

 遠い日の、親に手を引かれて歩いていく君を思い出すようで。僕はそれから大人になったんだ。

 カレーの街をひたすら歩く。
 防波堤近くの船乗り場にも警察が見える。
 また違う道へ引き返して、僕らは先に進んだ。

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