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「しかし、何故ここがわかったのか…」
吉田という男が上官の真木を鋭い目付きで眺めれば「神職は神社だ、知らないぞ」と、真木は歳やら官位を感じる余裕さを放っていた。
「…先程坊主に案内をされここにやって来た。
隣で公卿の弔い中で、その御仁は姉小路という」
「姉小路殿が!?」
真木が心底驚いた。
ここまでくれば流石に身を持って知る、それは相当な御仁だったのだ。
……確か、武市に東洋の暗殺を命じられたとき、
「東洋公は完全な公武合体派だ。我が主君、容堂公の尊攘理論の邪魔立てをする」
と言われた。
拾った話では姉小路氏は過激尊攘派らしいが…そもそも尊攘派が被害者、これは確かに前代未聞…なのではないか、と冷静になってきた。
自分の立場を考える。
共に国抜けした同士は尊攘を謳っていただろうかと考えてみれば、誰がそう言っていたのだろう。
肝心の、今はまだ気付いていないだろうあの薩奸だって、ただただ薩摩藩は先日に尊攘派を一掃した、と言うだけだ。
高い背中はよく言った、「海の向こうは大きいがよ」と。
この違和感は、前からあったような気もするのに。
「…ははは、まさか、君がですか?」
「…いぇ、」
だが吉田は笑い飛ばす有り様で。
「まぁ、確かに。あの男は最早開国、いや、売国に転じそうだったところだ。しかし……こうも時期が良いとは」
は、
「私が検分に呼ばれた……薩摩の人斬りの刀が側にあって、私はその者を知っていた…のだ、」
薩摩と口にしただけで両方、特に吉田がぐっと、苦虫を噛み潰したような表情で「あの賊共がか」と唸る。
……どうやら。
漸く掴めてきた。
藤宮という男も確かに何派やら何藩やら、立場やらと一切を言い表していなかったじゃないか。
ただ、悪事なんて一度やれば収まりがつかん。そのうち忘れてくとしか。
「…先の寺田屋の件もありましょうよ真木さん」
「あぁ、そうだな」
「挨拶を返されてしまいましたね」
……寺田屋。
「これを好転と取るか、いや、罠かもしれませんよ」
「何、いまの流れに長州は乗っている。あとは大和行幸計画が上手くいけばいい」
「そこなんですが、真木さん」
二人で話を詰め始めたのに「おまん、ほんにあの姉小路氏を殺したんか」と望月はすり寄ってきた。
「…いや、」
更に声を潜め、
「その人、あの三条氏の右腕やったんやで」
…耳元で言われて「あぁ、」いや、頭がすぐに冷えてくれば「あぁ…、」と血の気がなくなりそうだった。
三条実美なら知っている、というか、大いに関わりがある人物だ。なんせあれはいま、主君山内容堂と共に朝廷で幅を利かせているではないか……。
「あ、」
そうだ。
じゃぁ、そうだ。
いまや完璧に長州、そして山内容堂へ逆らう者が上手くもいなくなったのではないか。
「……そうか、」
その身震いは妙なものに変わってくる。
違和感の中のひとつの要素。
『武市さんは容堂公も東洋公も、ホントのところどっちでもいいがよ、信吾』
最後別れるときの言葉だったかもしれない。
「…どうしろという」
日本を洗濯する、だなんて。
聞き取らせるつもりも毛頭なく漏れ出た言葉。
それを拾った望月が「なん?」と聞いてくるが、黙るしかなかった。
「ウチの兄さん方が少々口煩くて。下関も片付かずお疲れなんだとは思いますが、今回の大和への行幸はまず、現実となるまで我が長州藩は指を咥えて見てろとのことです」
「例え長州でも、若者だな。まだ地位が気になるのか。しかし材料は今、揃っただろう。我々はやることをやった。売国公卿の首を晒したんだぞ?良い手土産じゃないか」
「流石先輩は言うことが違いますね。
そうは言っても互いに脱藩しているわけでもなく。私はそんな退屈なもの、そろそろいいかとは思っていますが」
「私も盟友とも言える会津を捨てての肝があるぞ吉田」
「あ、そうでしたね。あの人粛清されたそうで。失礼いたしました」
単語がいちいち気になった。
「…大和行幸で、何か…」
「君は信用に足りそうだな那須くん。
大和行幸、及び攘夷親征の企画を進めてきたのはこの真木和泉氏だ。これには血の滲むような努力があった。
しかし、未だ天皇はこれを快く思わないのか、参拝には将軍ばかりが赴いている、軍勢は幕府がと、ずっとあの無能な将軍に押し付けているのだ。
見たことか、2月の折りには体調が思わしくないと見送られた」
「…なるほど」
遥かに自分よりこの男の方が世論、情勢を把握している…。
なるほど、これが長州藩か。
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