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なんだ?それは。
「会わんかったけど…」
「…取り敢えず、出て行った」
「へ?
喧嘩でも…?」
「いや、急にフラッと…、本当に壬生寺へ向かったのかなと思ったんだが」
「………」
なんだ、それは?
「なんです?それ」
「いや俺が聞きたい…」
「あ、そーですよねそりゃぁ…」
隠すように、まだ羊羹の包みは避けておくことにした。
「なんか…お買い物でもあったんやろかね…?」
「いやぁそういう雰囲気じゃなかったって言うか…ついでにアレ…あの、藤宮の。アレには道中会ったか?」
「忙しいですなトキさん。いや全く」
「あそう……」
全くな疑問顔。
確かに、気に掛かるには掛かるだろうが。
「…平和になったん違います?」
「うん、まぁ確かにそうだが」
「アレらは根無し草なんで、まぁ、どうせ碌でもありませんよ?」
「うん、それも確かにそうなんだが…」
何か言われたのだろうか。
「何か、言われましたか?トキさん」
「うーん、いや、別に。話はしたけれども。なんか…お前が言ってたの、今凄くわかった気がする…」
「ん?」
「なんというか、気持ちが悪いな…こう、モヤモヤと」
「……あれは闇やで、トキさん」
「そうだな、まさしく。
ところで、何故壬生寺に行ったんだ?」
「あぁ、はい」
朱鷺貴は難しい表情で真っ直ぐ自分の目を見た。
「わても藤宮についてはモヤモヤしとったんで、少々話そうかなと。気紛れやけどね。
ところで、それで見聞した話ですが、」
「長州過激派の話か?」
…そうか。
「アレは知っとったんですかね?
なるほど…そんなら、ホンマに壬生浪さんにお世話になるんやないですかね、アレは。壬生浪さん、どうやら朝廷から命が出たようですよ」
「…なるほどな」
知ってることと知らないことが今、互いに行き合ったらしい。そんな反応だ。
「アレとはそのような話を?」
「君はアレから聞いていたのか?」
「いえ、さっきです。丁度忙しい様子でした。
沖田さん曰く…あ、帯刀されたようです。まだ使ったこともないと言うていましたが、なんや…丁度今から、言うた具合で」
言いながらどうにも、茶が少し濁ってしまった。
けれどまぁ、朱鷺貴はそれほど茶に煩くもないし、問題はないかと、ようやっと羊羹の包みを開けて出した。
「……ああ!そうか、そうだよな。へぇ、ちゃんと出世したんだ」
「土方さんなんてなんや、驚くほど垢抜けちまいましたよ。流石と言うか…」
「あぁ、アレは伊達男だからなぁ。そっか…」
「お西さんに陣を借りていましたが」
「…はぁ!?」
「嫌われたようです」
「何…、正気かよ…なんたる地獄絵図。ありえへんわ…嘘だろおい」
「詰んでありましたよ鼓楼に、銃が」
「…罰当たりそ…怖っ。流石田舎者…なのに新鋭だなぁ…近付かないようにしよ…」
「いや無理やろうて、毎日のように見回りしとるやないですか」
「うーん…やめて欲しいわ…西本願寺より、まだウチのボロに押し掛けてきた方がマシだよなぁ、迷惑だけども」
「それで…アレはどうしたんです?」
「ん?」
「アホ和尚です」
「あ、あぁ…一瞬すっ飛んだわ、そうだそうそう…」
確かにそうだろうけれども。
朱鷺貴は茶を眺め、心なしか重い気を放つ。
が、すぐに、「あんのクソったれ、」と肩を怒らせた。
「もー最悪だわ。
これを期に下手すりゃ捕縛対象になりましたとさっ!」
「…は!?」
うわぁ。
それこそまさしく地獄絵図…。
てゆうか。
「え、大丈夫なんか、それって!?」
「さぁ大丈夫じゃないんじゃないの?もー知らへんわ」
「いや、いやいやトキさんっ、」
「いや、知らんけど。まだ疑惑くらいかもしれないらしいがまぁまぁやべぇってよ、アレが言ってた!」
「ちょい待ち、なして?なしてなんっ、」
事の詳細はこうらしい。
アレの赴いた宝積寺にはそもそも山崎の戦という古い歴史があり(以下略)そういうわけで功城戦の名残が今でもどうやら、あるらしい。
そして250年の歴史を経た現在、長州藩の密かな本陣となりつつあるそうだ。
その軍勢にちょろっと幅を利かせている関白、鷹司輔煕という男は、しかし己が公言するほど立場を固めていないような、はっきりとしない男なのだそう。
「いざとなったら、わからないな」
先程そう、アレは朱鷺貴に語ったそうだ。
「…えっと…」
「まぁあの男なんてこれっぽちも信じていないがアレは言うことが陰陽師のように当たると以前アレから聞いたことがあってなぁ、」
「はぁ、」
「もうバカなんじゃないかと」
「…間違いねぇですが、ホンマですかそれは」
「知らんっ!」
鷹…なんたら輔なんたら、関白の…。
「あっ」
「あん!?」
「え、いや怖っ、トキさん」
「うん悪いけど機嫌わ」
「3,000の軍勢がなんたらって」
「…は?」
「壬生浪さんが」
「は?」
「その関白ですよ。長州がなんや、3,000だかを…集めるって」
「……え?」
どうやら朱鷺貴は固まってしまった。
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