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芹沢の「…誰だ」と、近藤が咄嗟に繕った「く…すり屋さん!」が見事に被る。
「あぁ総司、大事ないか、悪い騒がしくて」
「いいえ。まぁ治りました。薬がよく効いたみたいで」
近藤が翡翠を見つめ「忝ない、」と頭を下げる。
「あ、はい……。
沖田さん、では、こちらに漢方を置いて帰りますんで、何かあったら」
袖口から一包、たまたま持っていた薬を出して置いておいた。
ただの漢方だが、まぁ元気そうだし毒でもない、大丈夫だろう…。
「あ、わざわざありがとう薬屋さん。お茶も出せずにごめんね」
「いえ、せつろしいようやけど、お大事にしてくださいね」
これは早々に去ろう。
忙しいのは本当らしい…と、切羽の詰まる気まずい空気の中、翡翠は間を割るように八木さんの家から辞した。
…はてさて。これから沖田さんはあの、使いにくいらしい刀を使うんだろうか。
長州の閉め出しと斎藤が言っていた。一体どういうものか、皆目検討も付かない。
貰ってきた人相書きを改めて眺めてみる。
彼らの仕事は、これだ。京の治安を守ること。
どうやら、土佐藩の重鎮を殺した犯人が判明したらしい。
見かけたら、となってはいるが、前回の岡田以蔵の人相書きの件がある、きっとさっぱり似ていないのだろう。
背丈やらも特に書いていない。下級武士だろうか。
大体こういうのは、裏を牛耳る者が依頼をするものだ。阿片配りやら…殺しやら。身分のよくわからない、貧しい者に。
しかし、この“天誅組”とは、初めて聞いた名だな。
反乱の輩なんだろうが、これがひとつの集団だとすれば、まぁ、物の売り買いの仕組みも変わってきそうな。
義兄はもしかすると、そういったものにも手を付けているのかもしれない。だとすれば、それはこれらと変わらない。
自殺の話……死に関わってはならない、と。確かに、坊主のそれは浮世離れの綺麗事だ。
すっかり忘れていた。先日義兄が言った恥晒しだの非道だのと…思い出す。
腹が立つ割に何も言い返せなかった。当たり前だ、事実そうで自分も同じく関わっていたのだから。
どうして複雑な気分で、こうして少しは沈む物なのか、道中考え、途中で羊羹を買った。気が気じゃないというか、紛らわせたかった。
ふと眠りが浅いときのような碌でも無さのよう。どうしても深く考えてしまう。
たまに、まるで自分を上から見たような冷静さが「貴様など」と刄を喉元に当ててくる。
何故だかそれは、朱鷺貴が側で寝ているのになと実感すれば、下手な罪悪感に襲われることが多々あるのだ。
息苦しい、それは白檀などの香ではない。血生臭くて泥臭いものだなと、一つ息を吸った。
特に覚えてなどいない。それほど自分は空白に何かを…恐らくまだ、抱えている。
ある日、捨てなくともいいと言われた。どれもこれも肺に刺さる。
ぼんやりとそんなことを考え続け、ふと「寺が近くなったな」と景色を認識すれば、自然と息を吐き出した。
軽くしておきたい、いつの間にか癖になっている。
今日は喪服の人通りがない。
盆の目まぐるしさからめっきりとしていた。それでも、「近年、やはり忙しくなったなぁ」と朱鷺貴はぼやいていたのだ。
どうやらそんなものらしい。
境内に入れば一件か、微かに線香の匂いが漂っているような気配がした。急に誰か、仕事が入ったのだろう。
堂の前からやはり微かに経も聞こえた。誰だろう、朱鷺貴の声ではないな。四大坊主の……まぁ、光正さんかな。
台所を覗きどさくさに紛れ、仕事をする小姓から茶の一式を用意してもらった。
茶と羊羹を抱え部屋の戸を開けると、朱鷺貴がパッと自分を見て、「あ、ああ…ああ?」と、何故だか態度が一定しなかった。
「ただいま戻りました」
羊羹。
「お茶を煎れますね」と流そうとしたが、「お前さぁ、」と続けてくる。
「…お使いついでに」
「……壬生寺だよな?」
あれ。
特に告げても行かなかったのだが。
「…そうやけど…」
「………」
朱鷺貴が何故か黙りこける。まるで気まずそうな。
変な人だなと、まずは落ち着け湯呑みに茶を注ぐと、「おっさんの件か?」と聞かれた。
「おっさん?」
「アレだよアレ。藤嶋」
本当に嫌いなんだな…まぁ、初対面にして険悪な雰囲気の中、突然口付けをされたら誰でもそうではあるだろうが…。
「あ、はいわかりますが。アレがなんかしたん?」
「…さっきまでここに居たんだが」
「…なして?」
「まぁ幹斎についてとか、話をしてたんだけど…藤嶋、殺されるっつってここに来たよな…?」
うーん。
「あ、いや。追い払おうと壬生浪さんに押し付けに行ったわけやない」
「会わなかったか?道中」
「え?」
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