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 そのまま春夏は「2時間くらいなもんかな?」と、美容院があるフロアへ行ってしまった。

 流石にそれで大人しくなった亜里沙を気にするかのような修介の、「俺、ぬいぐるみは取れないタイプなんだよな…」と、ぼそっとした一言を拾う。

「…空間認識能力?」
「多分それ。
 まぁ、買いたいもんとかあれば。うん、それがいいんじゃないか?」
「それってしゅうちゃん暇じゃないの?」
「いいや?まぁ俺ならテキトーにホビーを眺めたりゲームやったりするわ」

 亜里沙を見ると「?」な表情。
 確かにそうかもしれないと思った由紀子は「買いたい物あるんでしょ?」と亜里沙に振ってみた。

「え?」
「え?ないの?」
「…今月ちょっとピンチで」
「あぁ、」

 修介は薄手のトートバックから黒の長財布を取り出し、そこからカードを引き抜き見せてきた。

「ハル様からのお駄賃を預かってる」
「えっ、」
「いや、しゅうちゃん?」
「あぁ、俺は自分のがあるから」
「いや、えっと…」
「名前は篠田で」

 由紀子にふらっと預けた修介は「このホールで待ち合わせな」と、まるでそそくさとどこかへ向かうのだから、唖然としてしまった。

「…どうしよっか」
「なんかさ、」

 亜里沙は修介の背を見て「タイプが全然違うよね」と、肯定か否定かわからない口調で感想を漏らした。

「瀬戸さんだっけ。あの人ちょっと取っつきにくい」
「…まぁ、そうだね」
「でもまず二人が…お姉ちゃん、なんか意外。無難な友達と付き合ってると思ってた。何者なの二人とも」
「うーん、まぁ…」

 聞かないうちに亜里沙はてくてくと先を歩き、「あっち、」と、リーズナブルなファッション屋さんを指す。
 多分、よく聞く流行りのブランド。

「お姉ちゃんもなんか買えば?もう少し遊ぶ感じで」
「…うーん?」

 亜里沙とは趣味が違いそうなんだけどな。

 しかし新鮮ではある。なんだかんだでこんな機会、いままでなかったし。
 亜里沙の本当の趣味だって実のところ、見た目で判断しか出来ないのだし。

「…遊ぶって言っても、私は肩出したりとか出来ないかも…」
「ふうん」

 大して聞いてないだろう、肩出しとホットパンツ。

 亜里沙は特別に足が長いとか細いとかではないとは、わかる。けど、突起して、というわけじゃないだけ。
 それは由紀子には、無茶にすら見えてしまうのだ。

「あたしがコーデしてあげようか?」
「うーん、」

 でもまぁ暇になっちゃったしな。

「…少しね。遊ぼうか」

 特にこの水色のワンピースがお気に入りというわけではないけれども。

 手を取り引っ張る妹におっかなびっくりするような。
 でも「少し変われるのかも?」いや、変わりたいわけじゃない。怖いというか「多分合わないだろう」が大半を占めたとしても、興味があるのは、何故なんだろうか。
 
 亜里沙は入ってすぐにアウターかなんかをちゃっちゃっちゃと見ていき「これとかさ」と取り出して眺める、白、ベージュ…。

 あれ、意外と大人しいような無難なような…。「ジーンズとかもありかも…」なんて…。
 まるでファッションデザイナーのような。

「あ、うん…」
「この花柄ワンピ前から着てるよねー」
「うん…」
「ん?」

 楽しそうというか…。
 早口というか、あっという間に流れてしまう感じはするけど…。

「どしたの?」
「いや、なんというか、もっと派手なのとかきそうだなって思ってたから」
「…あはは!そんなことないよ、服に合うやつに決まってんじゃん!派手めがいいってこと?」
「ううん…。
 亜里沙、やっぱりお友達とよく来るの?」
「そりゃそうじゃん。お姉ちゃん、来なそうだよね」
「うん、まぁ…」

 休日の大体は春夏と修介と過ごしている。たまにこうして来ることもあって、「それいいんじゃん?」くらいの会話は、なくはないけども。

「それより、亜里沙は見ないの?自分のとか」
「ん?
 いや、見るけどこういうのだって楽しいじゃん」
「…そっか、」
「ピンと来ないの?」
「ううん。結構良いかも」
「あのさ、」
「ん?」
「……何気に瀬戸さんもよく見たらお洒落だったよね。なんか、ハルちゃんにばっかいってたけど」
「……そうなの?」

 変だなと思ったことはないけど。

 「お姉ちゃん、疎いな〜」と笑う亜里沙。こんなことはやっぱり、初めてだった。

 例えば、二人もこんな感じなんだろうか。そういえば二人と買い物に来ても、なんだかんだ選んで貰うなりなんなり…まぁ、こんな風にはしていないような気がした。

 そうして少しは見て回った。

 やっぱり、亜里沙好みの服のセンスはピンと来ないものだったけど、自分に選んでくれたものは買おうかなとは思えてきている。

 結局、亜里沙は遠慮をしてしまったようだけども。

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