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ホールに戻ってもまだ、修介は居ないようだった。
由紀子が買った紙袋を眺める亜里沙は「う〜ん…」と、遠慮したわりには心残りがあるようだ。
「亜里沙、ありがと。亜里沙も買えばよかったのに」
「まぁ…うーん」
「まぁ、わからなくはないんだけどね。きっと遠慮するだろうなって。私は小さい頃から…こんな感じだったから」
「…ハルちゃんって、お金持ち?」
「わかんないけど…」
お家は大きいって噂だけどね。
「前に私が遠慮気味だったとき、「女は男の施しに乗っておけ」って言われたことがあって…もしかするとこれが失礼じゃないのかもって」
しかし修介はそのとき確か、「こんな歳からそんな洒落込ませてもどうなん?」ともぼそりと言っていた。
「うぅん…」
「しゅうちゃん、まだみたいだし、もう一回行く?どこか」
「うーん…」
自分が亜里沙の立場だったら、というのもわかるのだ。
結局、自然体でいるのが一番いいのだとそのときに思ったのだけど。
「あの、すみません」
ふと、声を掛けられた。
知らないスーツの男の人がニコニコ、営業スマイルのような顔をして身を屈めている。
「ただいまお買い物中でしょうか」
一体なんなんだろう、見たらわかるのではないかと由紀子が少し目を伏せると、「はい、そうですけど」と亜里沙が堂々と返事をしてしまった。
「すみません、お時間少しよろしいでしょうか」
よろしくないけどよろしいけどと考える間もなく「私、そこのカフェの者でして」と、男は側のカフェを指差して言う。
なんだろう?と疑問そうな亜里沙と、未だ伏し目な由紀子を交互に見た男は「いきなりですみませんね、」と少しだけ砕けたように続けてきた。
「お友達ですか?」
「………いえ?」
「今日はどれくらい歩いたんですか?」
流石に亜里沙も黙り込めば「あ、すみません」とまた男は謝る。
「少し休憩なのかなと思って。お姉さんと妹さんなのかな?
もしよろしければいまそこのカフェ、期間限定新作の試供をやっていまして、」
男は小さな名刺のような物を出してくる。“オレンジピューレのミルクティ”なるもののクーポン券だった。
「もしよろしければいかがかなぁと思いまして」
…なるほど?
「オレンジピューレ、ミルクティ…」
「一杯ずつサービス致します、如何ですか?もしよろしければ感想なども頂きたいのですが」
伏し目ながら由紀子はホールの椅子をぼんやり見回した。休日だからなのか、人は多いような。
子供連れやご老人が休んでいる。中学生男子も座ってゲームをしていた。
広告になりそう、ということなのだろうか…。自分達がこれを持ち歩いたところで、本当に効果ってあるものなのかなと思っていると「お姉ちゃん、」と亜里沙は袖をちょんちょんしてきた。
「少し時間、ありそうだよね」
「え、うん多分…」
「良くない?ただだし」
「うーん…」
迷っているうちに「どんなものなんですか?」と亜里沙が食いついた。
漸くその人をマジマジと見ると、少し鋭い目付きの人で、清潔感はあった。ニコニコしている。
お店の雰囲気はモダンな感じで、どうも…この人はお店のお偉いさんみたいな人なんだろうか…と、雰囲気に合うような合わないようなと感じ取る。
コーヒー屋さんに見えるが、こういった…うーん、斬新な感じ、なんだろうか…。
「セイロンティーを使っているんですが、このオレンジピューレっていうのはオレンジをそのまま磨り潰した物で、下の層にあるんですよ。セイロンは柑橘によく合うんです、どうですか?」
そう説明しながらなんだか、連れて行こうというのを感じる、カフェに促し今にも歩き出しそう。亜里沙も「あ、行こ行こ」と流されて急くような感覚。
それほど興味は引かれないが、そうなってしまうと由紀子も「え、」と言いながら気後れしつつ向かうしかない。
これにこっちの意思っていうのは、あるんだろうか。
男は「いやぁこういう年頃な女の子の感想をね、」だなんて営業をし続けているが、客席にはパッと見て渋い男の人か…一人、浮くようにちょっと派手で大きめの男性が見えた。
明らかに自分達は浮いているんじゃないかな…と思っていたところで「由紀子、亜里沙ちゃん、」と、修介の声がして一同は立ち止まった。
振り向くと、ホビーショップの大きな袋を持った修介がいる。
袋から見える箱は、多分モデルガン。
「悪い悪い、ちょっと夢中になっちゃった」
…これはこれでお店のタイプと違いそうな…。
というより、何故だか由紀子はまず少し、安心した。
「あれ?どうしたん?」
そう言う修介は口調のわりに、真っ直ぐと男を見て、まるで「なんだあんたは」と言い出しそうな雰囲気だった。
「…お連れ様がいらっしゃったんですね」
「ああすみません。妹達を待たせてしまって」
そしてすぐにわかった。修介はざっと店内を眺めている。
それは男もわかったらしい、「当店の試供品の案内をしていまして」と、早口で誤魔化すような説明を始めた。
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