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「少し話が違うって。お前はまずこっち」
「うーん」
「まぁいいけど」
「ハル、」

 修介がニヤっと笑った。
 
「それ、俺が食うよ」
「……はぁ?いや、いいって」
「なんで?その半分だったらいけるだろ」
「もう不味いぞこれ」
「じゃあ捨てる?」
「いや、」
「私も食べよっか?」
「飯は旨く食うもんなの。食いかけだし。悪かった……」

 春夏が理屈をこねているうちに目配せした由紀子は修介にぱっと、冷やし中華素麺を渡した。
 「な、」と春夏が面食らううちに修介は起き一口食べるが、「やっぱ、ごほっ、」と、水分を吸ったそれに少し噎せていた。

「…冷やし中華でしかない…」
「…悪かったって、いいっつーの全く」
「腹減ったんだよ頭使って」

 多分、見ていて鬱陶しさがあったんだろう。それと、心配も。

「わかったわかった…悪かったよ」

 作った本人である春夏が何故か謝っているが、あっという間に、見てわかる、半分ほどを丸飲みした修介はまた春夏にそれを返した。

「ダイジョブダイジョブ、旨い旨い」
「……んっとに全く、流石に引くわ…」

 麦茶片手に食い始めた春夏を見ても、大食い番組のようだと由紀子はぼんやり思う。

「無理すんな無理すんな」
「しゅうちゃん、麦茶入れよっか?」
「コーヒー」

 答えた修介はまた寝転がった。

 しゅうちゃん、たまに突拍子もない男気。

 言わずに由紀子は「はーい」と、冷蔵庫で冷えたペットボトルの原液を注いでやることにした。

 はぁ、と一息吐いた春夏の髪をまた撫でる修介の手は、無惨にもバシッと払われてしまっていた。

 多分、窓の外では当たり前に蝉が泣いている。

 読書感想文までは行きつかなかったし、絵日記は家で書こうと思った。

 夕方、洗濯物を取り込んだ春夏の手伝いをし、今日の終わりが訪れた。

「さて、今日は由紀子送るついでに外食でいいよ。由紀子も行くか?」

 洗濯物を畳みながら言う修介に「まぁ、」と言いつつ、まだ春夏にはあれが利いているようだった。

「あれだな、ファミレスにするかたまには。由紀子、家に連絡しとけよ」
「うんまぁ大丈夫だと思うけどそうする」
「したら…もう少し後にする?育ち盛りは夜中腹減るか?」
「大丈夫だよ、寝てるから」

 由紀子が居て、しかも外食ならなんとか春夏も引っ張り出せるだろうという修介の目論見を感じ取る。

 ふと、なんの関係もないが「お前本読む?」と、出会ってすぐ、ぶっきらぼうに聞いてきた学ラン姿の修介を思い出した。

 確かそう、教科書ではやらない小説家、過激な人物だったと記憶する、言われて調べた。その人と名前が一文字違いだからという理由だった。

「そういえば読んだよ、金閣寺」
「はぁ、金閣寺?」
「ハードだな、お前本読まないのにそんなん薦めたのか」
「え?」
「本?」

 ポカンとする修介はやはり「なんのこと?」と言った。

「えっ、」
「ハルちゃん読んだ?」
「まぁそれだけ…」
「何?」
三島みしまだよ。
 何?お前読んでないの?」
「俺本読まないじゃん」

 当たり前に言う修介に「そうだったの!」と由紀子はまるで裏切られた気分だったが、それより。

「どーだった?」
「いや…ハルちゃん、わかった?」
「ん?」
「私は難しくて全然わかんなかったから読書感想文、困ってたの!」
「正解だと思うわ。俺はその辺にあった考察とかを読んで答え合わせした」
「え、何、どゆこと?どんな話?気になりはするんだけど!」

 「もう一回読めばいいじゃん」という至極全うな春夏の返答が焦れったい。
 だが修介が「遅くなる前に行くぞ〜」とマイペースに話を終わらせてしまった。

 それから3人でファミレスの夕飯を食べた。

 あまりないことで新鮮。大人二人は配慮してか、例えば酒を飲むこともなかったし、修介はタバコの際は席を立ち店の外に出ていたし。

 俺、漢検1級は持ってるよ、まぁ大学行かなかったんだけどねだとか、大人になってから読む本もあるぞ、それはゲームも一緒だよ、だとか、どれを日記に書こうかなと由紀子は考えた。

 二人に会わない平日には特に書くことがないのだから、その日記は捏造かもしれない。けど散り散りに書こう、そうすれば毎日みたいじゃないかと、満ち足りて家に帰ることが出来た。

 家の前まで送ってくれた修介の車、それがいなくなった途端、ドアを照らす外灯と、なんのためか役に立つ機会が今のところないセキュリティーの監視カメラが、急にどっと重く感じるのも毎度のことだった。

 これは一重に、ただ“寂しい”だけではないと、なんとなく気付いている。

「ただいま〜」

 靴を脱げば心配そうな「お帰り由紀子」というお母さんの声。けれどそれは、テレビの音と同じく漏れ聞こえるだけ。

 何故だろう、これが現実だ、などというつまらない言葉が浮かんでくる。

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