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…それから律は、中林さんと二人でタラタラ、タラタラと歩き「なんだかあっちが合わなくて」と、こっそりした様子で延々ペラペラと愚痴を聞かされてしまっている。
陽が溶けかけた、下校の道中。
いや、そういうもんなんじゃないのか?俺のときも読めないことはあった……まぁ、わからないし言えもしないけど。
てゆうか待て、あれから一週間くらいしか経ってないんだけど、どういうこと?
と過りつつ、
「そっかぁ……そんなもんなんじゃないかなぁ……?」
だなんて無難に返している自分。
必要な情報だけはぼんやりと拾った。
先輩はどうやら、中林さんと付き合い始めたらしい。
今までの中林さんは、自分に先輩攻略法を、相談と言って話してきていた。
エスカレートして仲介までさせられそうになり、困ったり罪悪感があったりもしたのだが、こうなるとどうしていいのかとまた別の道へと渋滞し始める。
自分は突然急接近してしまったのだから、対策もわからないし、一つも役に立っていない、立てないはずだけど。
その事実を、中林さんには当たり前に内緒にしながらもこうして続いている。
もしやダブっているんじゃないか、だとしたらもしかして、もしかして。先輩からこっちのことを聞いていて…いや、わからない。
しかしそうなったらこの子は一体どういうつもりか、いや、やっぱりそれは考えすぎなんだろうかと、様々を考えヒヤヒヤもして…悔しいやらなんやらを思う前に、最早中林さんの話は右から左へ、お経と化してしまっていた。
「……もう少し聞いてくれる?」
「え、あぁ…」
ホントはもう何回もぐるぐるしてるし気持ちもパンクしそうで、凄く帰りたいんだけどなぁ…。
というかどこに向かってるか、家の方ではあるから普通に歩いてきたけど、そういえばここはどこだ?
まわりを見渡す。
間違いなく自分の家というか、バイト先方面で、見覚えがある畑もある。中林さん家、どこなんだろう、一体…。
「そろそろ、俺、家つきそうなんだ、」
「ん?あぁ、そうだろうね。バイト先近いもんね」
「うん、だから…」
「私の家、あっちなの。よかったらお茶飲まない?」
中林さんは畑の向こうだか道路の向こうだか、わからない方を指差し「ねぇねぇ、」と、ブレザーの袖を掴んできた。
“拒否権”という言葉を浮かべる間も与えては貰えず、自宅とは反対車線の方へ手を引かれるのだから「え!?」と度肝を抜かれそうだ。
この人あんまり喋ったことなかったけど、クラスのなんとなくな印象は「清楚ちゃん」だったのに。意外だ。
女の子って凄い……グイグイ着いて行かされるのに、なんだかもう、ぐだぐだ考えるのも面倒になってくる。
きっと、結構必死なのかもしれないなともお人好しに考え、「わかったよ」なんて、ついつい言ってしまう自分にもなんなんだと溜め息を殺す。
「ホントにぃ!?」
振り向いたその表情。
…しかしなのか、やはりなのか、純真無垢で嬉しそうなのだから、ますますわからない。
「…でも…なんで俺なのかな?恋愛とか…全然だよ?」
「うん、」
「話聞くくらいしか、出来ないと思う…」
「うん、いいよ、聞いてくれれば、全然」
「…そっか」
共通の相手、彼女は秘密にしているらしい。
屯している中に「あの人よくない?」と言った子がいたからかもしれないと、ふと思い出した。だから話せないのかも、しれない…。
自分がまわりに話せなかった気持ちが重なるような気がして、やはり気まずかった。
「ずっと話したかったの。律くん、ありがとう」
そう言って彼女は笑った。
…複雑だけど、まぁいいか。…俺には、愚痴すらもないままだったよ、中林さん。
それから彼女は何も話さずに取り敢えず律を家に連れて行った。
砕けたものがどこに漂着するのかは、誰もわからない。
何よりあそこで、様々な可能性を深掘りするのが怖くなって放置してしまったのも、原因の一つではあった。
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