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あの日、先輩はバイトに来なかった。
わかっていた、そういうことなのだ。
だが、何故か22時のバイト終了後、物陰に隠れて現れた先輩は「危ないから、」と自分と一緒にバイト先から帰った。
更に奇妙なのはその帰り道、どういう流れだったか、なんとそこから付き合うことになったのだ。
都合の良いことにあちらから持ちかけられたけど、結末は…そう。
単純に高校生の自分は、何一つ心が着いて行けなかったのだと今更振り返る。
それが悲劇だったというところで、目の前でシャツを羽織るオカマさんが「で?」と、タバコを燻らせ更に聞いてきた。
新宿の、ラブホテル。
「はぁ…、」
なんで自分はベッドで裸で、知らないオカマさんにこんな話をしているんだろうか。
夢中になっていて気付かなかったが、賢者タイムでより加速する。
会ったときとは全く別人のおっさん顔になったオカマさんをまじまじと眺め、誰で何でどうなんだと、最早カオスだった。
「あたしの予想、言ってみていい?」
「…はい」
「バッティングしちゃった、とか?」
「……それ、考えただけで怖いですね」
身体中がぬるぬるする……。
オカマさんがそれを読んでか、「まぁ風呂でも入れば?」と気遣ってくれる。
…色々思い出しそうになる。
「でも、トラウマ聞いてた気がするんだけど、その女とヤったにはヤったの?それ」
「…いや、ないです本当に今さっき卒業しましたそこは正真正銘で」
「早口っ。
なんだろ、じゃあ…取り敢えず寝取られたは確定よね?それ。でもなんか、それだけじゃそうはならないわよね、きっと」
「はい、その…物凄く吐きそうな展開になります…」
「襲われちゃったの?」
…思い出すだけでおぞましいが、まず、
「そう!いや、えっとそこまでじゃないけどなんでわかったんです!?」
こっちもこっちで恐ろしい。
今だって充分、まさかのオカマさんと行きずりで男も女も捧げてしまったという現実があるし。
しかしいっそ、と、やはり自分のことを知れたのはこのオカマさんのお陰ではあるのだから、そこはいいのだけれども。
「いやぁ女にトラウマ持つとか、それがセオリーでしょ間違いなく。第一、男をそんな急に家になんて呼ばないわよ普通。それを楽しんでいた、てのも今になれば確定でしょ。
例えば、余程興味がなくったって、どこかには可能性が過るもんじゃないかと思うし。今の子は違うの?
あんた、友達と来てたんだからいないわけじゃないでしょ。恋バナしないの?」
「その手の話は避けてましたし…」
穴埋めでもありましたし。
「それでいきなりハプバーとか……荒治療のつもりならやめた方が」
「いや、20歳記念だそうです…」
「如何にも大学生ノリねぇ」
ふう、と煙を吐き吸い殻を捨てたオカマさんは、急に腕を立て側で寄り掛かってきて「まぁ、」と、やっぱり距離感が近い。
ちょっと慣れない、と、ついつい顔を背けてしまうが、まるで押し倒されて一緒に布団に入る。
「よしよし」とオカマさんは自分を抱き締めてくた。
オカマさんですら、自分より逞しい体型だった。
「…その後、」
「うん」
「そのクラスメートから、実は自分が好きだったんだと聞かされて」
「…あぁ、なるほどね、そっちへ行ったか…」
「仲が良かった先輩…は、つまりダシにしたということだったらしく、」
「それが、好きだった男なのね?」
「はいぃ…」
不自然に黙ってしまう。
どうしても思い出したくなかったのだが、「はいよしよし良い子ね」と、当たり前に股間を揉んでくるオカマさんを「いやちょっと待って…っ!」と制する。
「なんで?出しちゃえば良いじゃない」
「いやもう…」
「赤の他人だからこそ、てのはあるもんよ?」
話ながらゆるゆるしごかれるのについつい「うぅ……」と意識をそっちに持っていかれそうになるが、あの部屋のことを思い出し、一瞬でしなってしまった。
「あら、やっぱり絞りすぎたかしら…」
うんまぁ、かなり相当……。
「……貧血…とかで死にそうです」
「若いんだから寝りゃぁダイジョブよダイジョブ。あ、鉄材飲む?持ってるけど」
ただ…美味しくないのよね、吐いちゃうかもしれないわ。と一人言を吐くオカマさんに、なんだかもう強いや…と脱力ばかりして行く。
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