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 たまたま立ち寄っただけだったのかもしれない。

 染みっ垂れた気がした冠婚葬祭の黒。いつまで経っても体臭から死を匂わせる気がしている。
 忘れたい。
 それも僕の自意識過剰のような気さえすることが重々しく感じていた。

 あそこは色々と気が滅入る。そんな怠惰で空虚な、僕の無意識なのかもしれなかった。

 そこから逃げ出した先は雨だった。
 僕はコンビニで青いライターと、青のハイライトを買おうとしていた。

 中国人の店員は僕にタバコを持ってくるも、強気な口調で年齢確認をしてくるのだ。
 ぼんやりと考える。
 幸か不幸か、その現象で僕は全てをあの場に置いてきた事に気が付いた。ポケットを漁ってもそれらしき物は出てこない。

 唯一出てきた黒の、百均で急遽買った数珠。
 なんとなく、そのアイテム一つで僕の気持ちには諦めやら有象無象が入り組み、中国人の女性店員に「いいです」と断ろうと考えたのだが。

「あぁお姉さん、俺が買うわ」

 真後ろから低めの声が降ってきて、僕はそれにはっとして振り返った。

 その男は染みったれた黒。背は高い。服装のわりにやけに爽やか、しかし髭が浮いているのが、どこか粗野さのある人だった。

 男は特に僕を見ることもなく、レジに置かれたハイライトに手を伸ばし穏やかな表情で、少し古めの500円を出すと、それに動揺した店員が「80円、お返しデス」と片言に言うのが少し怯えているような、そわそわした態度に変わってしまった。

 会計を終えた彼は僕の肩を抱くように軽くつかみ、そんな余韻を残した雰囲気のまま、その背が高い彼と僕はコンビニの外へ出る。

 一騒動終えたような気分だった。

 外の灰皿へ向かう彼に所在、行き場を亡くしてしまった僕は、ただ隣に立ち尽くしてしかなく。

 僕らの間には銀の薄汚れた灰皿。
 彼はどこか遠く、空の向こうを眺めるように綺麗な瞳をしていると気付いた。
 170センチの僕でも少し彼を見上げるよう。僕と一回りは年齢が違いそうな印象。湿気だろうか、少し癖っ毛。

 惜しげも遠慮もなく、自然な動作で彼は、いま買ったソフトパックの銀の入り口を炙る。
 叩いて一本のタバコを取り出し、空虚に軽く咥えるのが様になるようで。

 視線が合えば無機質に、「吸う?」と、これも自然な動作で僕に彼はハイライトの口を向けてくる。僕は「いや…」とどもるしかなく。
 咥えたタバコを挟む彼の指は骨張っていた。

「あそう。いくつ?」

 そしてまた、彼は何事もなくまた雲を眺め、ぼんやりした口調。正直答えにくい。
 だが、彼は「じゅう…ごくらい?」と近い年齢を提示する。僕は答えにくさに追い討ちを掛けられたが、それは咎めるものではなく、気の無さそうなものであって。
 また黙る僕に彼は更に一人で「斎場は?」と話題転換をするのだった。

「はい…?」
「俺多分、そこの道左のとこなんだけど、行ってないんだよね」
「…僕は右です」
「あそう」

 真っ直ぐ空へ伸びる煙を眺める視線は、そのわりには死んでいるような、諦めや何かを含んでいるように僕には見えた。くたびれた、そんなもののような。

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