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「線香みたいだよね、これ」

 ぼんやりと、まだ大して吸っていないだろう紫煙を眺めて彼は言った。真っ直ぐピンと伸びたその煙は、確かにそうかもしれない。

「綺麗で好きなんだけどな、|辛《から》いんだよなぁ、」
「…すみませんが、吸ったことないんですよね」
「そう」

 少し口角が上がった彼の、左笑窪が目に入る。

「あの雰囲気、なんか嫌いでさ。急いで来たはいいけど、まぁ帰ろうかな」
「はぁ…」
「染みっ垂れた臭いを消すのにいいなこれ」

 先程までの空虚とは違う、彼の強い瞳。
 それから彼は悟ったように言ったのだった。

「大方、知らない親戚の葬儀に参った、そんなん?」

 的を射ていた。
「まぁそうですね」と、どうしたもんかと僕が答えれば、彼は更に笑う。

「俺も」
と付け加えて。

 そして彼はタバコを揉み消し、僕にその青いパッケージを渡して来た。
 その行動に僕はなんだか呆然としてしまって、彼の顔を見上げれば特に色はない。
 僕がタバコを受け取ると彼はにやっと笑い、その手をヒラヒラと振ったのだった。

「あの、」

 僕は彼に声を掛ける。特に、何かを伝えたいわけでもない、引き留める理由もない。だが彼が去ることを僕は止めている。

 何故だか、その背に何かを言わなければならないと思えた気がして。しかし、これと言った話題はなく。

「すぐそこですか」

 振り返った彼に僕はどうしてか、
その一瞬に哀愁の瞳を見た気がして、言葉は僕の口頭へ呑み込まれてしまったのだ。

「新井」

 それだけ言っては今度こそ去り行く彼の、名前と思わしき「新井」に、柔らかな箱を少し握った。
 試しに一本吸おうか。
 取り出して火を点けるも、すぐに先が焦げ、消えてしまった。

 僕はこれを新井さんに返そう。

 まだまだ長いタバコを灰皿に捨てる。
 またあの場所へ戻ろうするのだが、なんとなく反対方向を振り返ってみた。

 当たり前だが何もないし彼はいない。その足で僕はコンビニから右、親戚の斎場へ一人、歩みを進めた。

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