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「えっと…。あっ、すみません、お悔やみを申しあげます。
僕、先の式場の岩波家から来まして…|成瀬《なるせ》と申します。たまたまコンビニで会って…。背の高くてちょっと癖っ毛というか寝癖と言うか…。何だか粗野な感じの…、30代くらいの男性でした」
思い出して彼を伝えてみたが、なんだか失礼な気がする。
参列者の女性がまだ何か、聞きたそうに僕を見つめてくるので、僕は僕はもう少し情報を付け加えることにした。
「タバコを、一緒に吸いました。そのタバコ、返しに…来たんですけど…」
言っててやはりおかしいし、不謹慎な気がしてならないな、これ。
香典の男性が「先生、嫌煙家だったよな…?」と呟くように言った。
嫌煙家。
やはり間違いとか、偶然なんじゃないかとか、羞恥だとか申し訳なさで汗がじとっと出てきた。
ならば去りたい、意味がない。
「ふっ、ははは、」
だが、参列者の女性はそんな僕を見てなのか、優雅に手で口許を押さえて笑ったのだった。
「しゅうちゃんだわ。間違いない。
源一郎さん、しゅうちゃんには悪いことばかり教えていたから」
…予想外だ。
だが彼女は、それから寂しそうに、けど懐かしさを感じるような表情で「そっかぁ」と黄昏るように呟くのだった。
「しゅうちゃん、来てくれたんだ」
「いや…」
「しゅうちゃんを息子のように可愛がってたみたいで。
よく、家の裏手でタバコ、二人で吸ってたのよ。青いやつ」
青い、タバコ。
もしかすると、僕がコンビニで会った人で間違いないかもしれない。
「しゅうちゃん、元気だった?」
そう聞かれたって…。
僕には去って行った、今なら少し寂しそうにも思えるあの広い背中、『よくわからない親族の葬儀』と言ったその表情を思い出すしかないし。
「…まぁ、わかりませんが、多分…」
「…ぱったり来なくなっちゃってね。源一郎さんも、寂しがってた」
確かに。
なんとなくだけど、たった数分だけど。あの人には葬儀に複雑な思い入れがあったようにも思えた。哀愁の瞳やら、どこか、眺めるあの仕草が。
「あの…。
来なくなっちゃった、てのは…」
香典の女性が参列者の女性に、言いにくそうに詰まって訪ねると、参列者の女性は寂しそうに俯いてしまった。
それから参列者の女性は「それはまたね」と頭を軽く下げて出口に向かおうとしたけれど。
最後に、
「もしよかったら、しゅうちゃんにそのタバコ、返してあげてね」と言い残し、出て行ってしまった。
記帳の女性が少し考えながら、「本当はダメだと思うんですけど」と、紙に何かを書き、僕の前にすっと滑らせて渡してくれた。
「ハガキで送った所です。住んでるかはわからないけど」
僕はぼんやりとそのメモを受け取ってポケットにしまい、少し考えてからその名簿に僕の名前を記帳することにした。
感謝やら弔いやらを延べ、僕は“新井家式場”から出ていく曇り空。空を見ていたあの背の高い人。
不思議な気分に少し、戸惑っていた。
──↓2冒頭
後日の雨の日だった。
僕は電車に乗ってやあの“新井家”の式場で貰った住所へ向かった。僕の最寄り駅から3つ目。そこからバスに乗り、歩いて5分ほどの場所。
街並みは少し落ち着いていた。一軒家が立ち並ぶ中、白い壁にも年期が見て取れる二階建てアパートの202。そこが彼の自宅らしい。
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