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意を決する思いで僕は、「こんな時にすみません」、と、受付に訪ねてみることにした。
受付の3人が僕を見た。
言ってしまったからには腹を括るしかない。
「大変失礼極まりないかもしれないのですがその…僕は故人の方を知らないのです」
「え?」
記帳係をやっている、黒髪の長い40代くらいの女性が当たり前な反応をした。
僕は何を話せばいいんだろう。
疑問や不審のような表情は皆同じ。
僕は俯くことしか出来ない。手が湿って組合わせも悪い気がして手持ち無沙汰になってしまう。
「先程、コンビニで、こちらの方の親戚だと言う方にお会いして…。その時に、買い物で借りを作ってしまったので…返そうと伺いました」
事実を言ってみてから、顔を上げると、「さっき?」
「さっきって、誰か出たっけ?」
記帳係の女性が他二人に振った。
しかし二人とも
「いや…」
「多分いないと思うけど…」
と、先程を思い出そうとする目線になった。
「…多分…別の所じゃないかな?」
「…新井、と名乗ったのですが、親戚の葬儀だと…。コンビニから左だって」
「この辺じゃ新井家は、確かに今日はウチだけだな」
20代くらいの茶髪の男性がそう言ってから考えを巡らせている。香典係かもしれない。僕を見掛けてすぐに反応したのは彼だった気がする。
「あ。
そう言えば、ハガキ送ったヤツでまだ来てない人、いたよね」
男性の一言に、記帳の女性は名簿に目を通し始めた。
「この“あまふじ”?しゅうじ さん」
「“てんどう”じゃない?
近親者の中で唯一来てないよな。でも名字に他、てんどうなんていないな。親族の方なら知ってるかな」
「あ、いや…」
そこまでしなくてもいいんだけど…。
「今葬儀中だけど、多分もう終わるだろうし」
「いや…その…」
「俺らみたいに大学関係者でもないよな、多分」
大学?
「…すみません、その、故人はどういう…」
「文芸部の講師だった」
そうなのか。
「よしがき先生、今まで生徒でいなかったの?この人」
香典係の男性が記帳係の女性に聞いたタイミングで、ちらほらと参列者がホールから出てきたようだ。まるで蟻のよう。
受付3人は立ち上がり、過ぎ行く蟻のような参列者達に綺麗にお辞儀をしたりし始める。
その蟻の参列者の一人、50代くらいの少しぷっくりした女性が「生徒さん?」と、僕を見て受付に歩いて来た。
その女性に受付がそれぞれさらに深くお辞儀をしたり挨拶をしたあと、「すみません、こちらの方が…」と記帳の女性がその人に言った。
「新井家の親族の方にご用事があったようなのですが…。先程コンビニで出会ったようなのですが、何分どなたかわからなくて…」
「先程?」
「はい…。
特に彼以外、出入りがないので、誰かなと」
「もしかして、しゅうちゃん?」
参列者の女性が僕に、訪ねるように聞いてくる。
「しゅうちゃん、まだ見かけてない気がするんだけど…」
「てんどうさん、という方、お見えになっていらっしゃらないですね」
「どんな方でした?」
記帳の女性と参列者の女性がやり取りする中、途中で参列者の女性が僕を見て訪ねてきた。
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