第一章(二人称的なやつ)
君の意識は暗い。ぼんやりと、それとは違う日常の意識が少しずつ耳から流れてきて目をゆっくり開けてみる。
少年、君は今埃臭い、目には見えずと薄汚れているだろう白いベットに寝ている。
枕もシーツも身体を包むには硬いような、不便なベットに少しの落胆が、最早無意識のように心に浮かんでくるだろう。
集中意識はそれから君が寝ている頭上の窓格子と漏れ出た朝日に向かい、ふわっとあくびをして徐々に徐々に意識を回復していき「今日だ」と、18年目の毎日を程無く確認出来ただろうか。
まずははっきり、どこかぼんやりとここ数ヵ月の毎日の無意識な確認を済ませる。
ここはどこだ、問わずともここは厳重な鉄扉、非現実的で狭さを心に圧迫してくるようなコンクリート。
「なぜ俺はこんなところにぶち込まれちまったのか」と刑務所に入れられた自身の身を振り返る。寝起きの低血圧な頭痛にダルさを感じて起き上がらない。回想、回想をしようにも寝起き故にまだそこには至らない。
大嫌い、いや、疎ましい、いや、目障りな、人好きな笑みを持つ3歳年下の、可愛らしく小柄で二重瞼の鼻も高い、少し前まで見慣れていた弟、|琉太《りゅうた》は最期、唖然、驚愕、耐えがたい痛みを表情にし両膝をコンクリートの地面につけた。
兄である君を見上げて右ズボンにすがり付いて来てはまた地面と俺の革靴をこくりと見て|草臥《くたび》れたようだった。
と、記憶が君の頭のどこかから浮上してきて振り払おう、振り払おうとぼやけて思っているはずが、
姿が目に入ってくるだろう?
黒い、夜のコンクリートの上で|跪《ひざまず》いた琉太の現状に俺は唖然、掴んでいたズボンから琉太の手が草臥れてするりと落ちていき、
君が手にした右手のナイフは、震えた手からかしゃんとコンクリートに落ちる湿った音がする、雨だった。
手の向こうには弟が倒れたのが見える、血の気がない青ざめた肌色、苦しそうに息を荒げナイフが刺さった腹を押さえて唸れもしない弟の目とかち合って。
意識は一気に覚醒していく。
ここは狭苦しく気分を朝から君を憂鬱にするようだ。
「可愛らしい子」と、生まれたときから皆に愛されていた琉太の、変わり果て瞳孔の開いたその目、鮮やかか褐色かわからない血で汚れた口元、自分の体温を奪い、低体温にしていく雨。俺はだからここにいるんだ。
身震いを覚えて君は思わず自身を抱き締める。怖い、でも、悲しいような、なんでだよと云う感情が狭苦しい、圧迫してくる、ベットは硬い、ここは寒い、布団は埃臭い。
鉄を叩くノックに意識を持って行かれ条件反射に叫びそうになる。
「食事だ」
響くような、届かないようなドアの向こうの他者、男の声。感情もない厳粛な声。君の現実ははっきりと今、流れ出した。
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