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「そーなんだ……君はいくつ?」
「あぁ、一個上です、ちゃんと」
「あ、そーなんだね…、も少し上に見えた」
「え?」
「うん…」
「さっき、大学生かって聞かなかった?」

 あ。

「あ、そーなんだけど、そーじゃなくて……服装とか。でも近くで見ると大人っぽいというか」

 あれ。
 こんなしどろもどろだったっけ、俺。

「…初めて言われた」
「…年齢不詳というか、ミステリアスというか」
「何考えてるかわからないとはよく言われる…」
「あ、うん、ソーダネ」

 …だっせぇんだけど。
 てゆうか…マジ戸惑いすぎて焦るんだけど……!

 しかし彼はその、よくわからない美人から急に破顔し「…はははは!」と笑った。

 あっ。
 ちょっと幼くなった…!

「…あまり慣れませんか?」
「え、いやまぁなんというか…」
「俺もです」
「え」
「来てみたはいいんだけど、普段よりはまぁ…落ち着いてる気がする…ような…?」

 彼は振り返り、ホントだ首に黒子ある、まわりを見回して「楽しそうですよね」と言う。

「…ですねぇ」
「貴方、居にくいんじゃないですか?普通の人だと思ってたんだけど」
「あっ」

 急に予防線来た…。あれ、やっぱり見られてたのね…。
 まぁ俺だってあんたのやつ、見ちゃってるけど。

 そう思ったらいつの間に「はははっ、」と笑えてきてしまって。沸いちゃったのかもしれない。

「何回か見掛けた気がしたんだよね、あんた」
「…そうなんですか?」
「大丈夫です…なんというか俺、どっちもなんで」
「…なるほど…?」
「多分というか、ちょっとわかってないけどね。
 それで、来てみた」

 嘘七割だけどね。自分がわからないというとこ以外は。

「……なるほど」
「もしかして、あんたも?」
「え?」
「いや、なんとなく今の反応」
「…わからなくはないけどしっくりじゃないかも…というか」

 なるほど。

「まぁ、女性でどうにかって出来ないのは間違いないんだけど…うーん、わからないなやっぱり」
「へぇ、」

 来たな。
 急に来たな、チャンス。
 こんなにコロコロ目まぐるしく変わるなんて、なんか。

「…楽しいかも」
「え?」
「俺今しっくり来たかも。ねぇ、何歳頃変な感じした?」
「…えっと、」
「ま、いいんだけどね。俺は多分かなり前で。悩みはしなかったけどさ」
「…そうなんだ」
「聞いてくれる?」

 彼はポカンと…目が綺麗に見える。何故だろう。でもやっぱり知りたい欲ばかりが先行するような。

「…晃彦」
「ん?」
「望月晃彦」
「…本名言うの?」
「うん。俺は。今の気分だけど」
「…アキヒコくん」
「ありがとう」
りつですが…」

 律か、名前。

「ありがとう」

 当たり前に礼をしたのに、律は少し伏せ目で…どうやら考え事を始めたようだ。
 それが終わるまで待つように酒を飲み、一杯がなくなる頃に「ちょっと意味がわからなかった」と、可愛らしい返答が返って来る。

「んー?」
「いや、感謝される意味が」
「名前を聞けたから」
「あ、なるほど…」
「呼んでもくれた」
「普通じゃない?」
「うん、まぁそうなんだけど。今の気分ってとこで」
「自由な人…」
「そうだね。フリーダムがいいの」

 あ、そっか。
 言ってみて強く確信した。そっか俺、自由になりたいのか。

 何かにすがる自由、求める自由、手を伸ばす自由。それらを許容もしたい、与える自由。

 俺は恋をしたんだなと寝る前の相手に思った。
 でもこれ、初だな。なのにはっきりとわかる。酔ってるからかもしれないが、違うと気付きたくて目を合わせる。

 律ははっきり見てくれていた。

「…おもしろいね、アキヒコくん」
「そう言われたの、初だわ」
「そっか」

 この空間が小さくて、人はちっぽけだけど、そんな俺ですら一人ぼっちにならないように出来ていると知れた。

 このありふれた空間から二人で出たとき、切った爪のような月が見える。雨が降って空気が綺麗になったのかもしれない。

 俺は舞い上がっている。
 が、安心していた。リラックスかもしれない。

 一過性で、一度きりで過ぎたとしても俺はそれ以上を求めるだろう。それは、幻想を追いかけているようでいつだって気持ち悪かったのに。
 それすらも忘れたくないなんて、実はかなり俺も薄味だったんだなと、打算的だった自分に気が付いた。

 誰も皆寂しく、震えないようにという傲慢さが掻き立てるのか、ホテルで律を押し倒しキスをしようとしたとき、月のような目をしてると思った。

「綺麗な目してる」
「そう?俺もあんたに同じこと思った」

 再びチャレンジすれば「待って」と、アイアンクローすら食らった。

 そうか、ダメなタイプなのかな、まぁ俺はあんまりキスしない方だわと、反らして見えた首の黒子に唇を充てると、それはよかったらしい。喉仏がきゅっとしたのがわかる。

「…首はいいんだね」

 耳元の髪をなぜると今度は少し声が漏れたような。可愛いな。食べちゃいたいと動物の本能に刈られるから、耳を舐めてやる。

 少し縮こまる身体に「目、閉じてみて」と、自分でも驚くくらいにノリノリだった。

「…どぅして?」
「いいから。多分凄い」

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