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取引先の若い男の一言のせいで妙な考えになってしまった。そういえば最後はいつだったか。
「自分で処理した方が」とも言われた。それはいつだったか。
…自分はもう若くない。あの青年とは訳が違う、多分彼は自分の三倍程はそういったことに勤しんでいるだろう…あんな、「自分で処理した方が良いこともありません?」だなんて、自分とは理由も違うはずだ。
少し前からわかっていた、そう、いつからか妻に対しての欲情が薄くなったのだ。
かといって、よく連れて行かれるキャバクラの女の子たちに欲情するかと言えば、そうじゃない。
精根渇れ果てたという認識が強いのだ、正直。だからより、女の子に気を遣ってしまうことが…疲れる。
試しに息子が「可愛い」というタイプの女の子を見たらどうなんだろうか、テレビとかで………。
ちょっと待った。
息子の趣味を知らない。
あ、いや、それは当たり前だろうしヒットしないんではないか。
考えただけでも恐ろしい、息子のネタで抜く自分……。いやぁ、息子は果たして抜くのか…抜くよなぁそりゃ……。
…今時の若い子…いや宮下はバイセクシャルだと言ったな、つまりそれは…何でどうするんだ。
全く、何考えてんだよ俺は。完璧にあの宮下の爆弾が効いている。
帰宅した。
「……ただいま」
金曜日の疲れ、同時に解放感が胸を占める。
リビングに入ると、息子はテレビを見ていて、妻は「あ、おかえりなさい」と、電話台の小物入れにピアスをしまっていた。
妻はよそ行きのような、ウエストに飾りのベルトがついている若い印象の、初めて見るワンピースを着ていた。
「どこかに出掛けたのか」
「あぁ、うん。お友だちとランチしてたら長引いちゃった。いまから作るね」
そうなのか。
色は黒地に白のチェック。
…変なことばかり考えていたせいか、それすらが新鮮に見える。
妻は多分、綺麗な方だと思う。化粧の良し悪しはわからないが嫌味もない薄めだろうと思う。
着替えに去る妻からすれ違い様、仄かに甘い香りもした、ような気がした。
「………」
俺も着替えるか。
ふと、「なぁ」と息子から声を掛けられる。
「あれ見てどう思うの」
息子はテレビから目を反らさず素っ気なく、そう言ってきた。
「ん?」
というか…。
話したの、久しぶりかもしれない。
「あれって?」
少しむず痒いような…なんて、息子に話しても仕方ないしなと思っていればやはり「おふくろだよ」と……。
息子の他人行儀さに違和感を持ちつつも、いや、いつもそうだなと日常に戻る。
「母さんがどうした?」
「なんとも思わねぇの?あんた」
あんたって…。
「何が言いたい?」
「友達とランチとか」
「別に良いんじゃないか」
「…はぁ、」
溜め息を吐かれた。
息子はさらに呆れたように「んな訳ねぇとかなんで思わないわけ?」と反撃してくる。
「は?」
「別に良いけど」
…それは一体何を言っているんだ。
考える間も与えられぬまま、妻は先程とは全く違った、何の色気もない普段着を着て戻り「あら、着替えてきたら?」と、特別感情も込めずに言ってくる。
「あ、あぁ…」
それもそうだなと自分もリビングから去ろうとしたとき、気のせいじゃない、さっきよりも確かに香水の匂いを関知することが出来た。
もしかして?と思いついつい振り向くと彼女は「そういえばさ」と、冷蔵庫を開けながら言う。
「今回はボーナス、いくら出るの?」
「ん?
うーん、わからんけどなんだ?」
「いや、別に」
そこそこ眺めてしまったのかはわからない。
「なに?」と言われてしまったので「いや、」と、自分は何故か俯くような気持ちで寝室へ戻って着替えを済ませた。
…言われてみれば、よそ行きだけあって、まぁまぁ色気があったような気がするけど。
金曜日の疲れと解放感があった。
結局それから夕飯を過ごし、そうか、と思ったが、妻は自分が風呂から上がった頃には先に就寝していた。
しかしどうにもこうにも、確かに一週間の総まとめだってある、だがいつの間にか自分は寝ている妻へ股間を押し付けすりすりしてしまっていた。
「…やぁよ…」と起きてしまった妻への配慮の前に、人の、同姓の自慰など見たことがないものだなと、同じシャンプーの匂いがする妻の項へ唇を当てていた。
背を向けていた妻は珍しく自分へ寝返り「何よ」と熱い目をしてくる。
それでも、自然と身体は動くのだから、やはり色々なそう……これは劣等感だったのかもしれないなと、それなりに盛り上がれそうなことに久々の暖かい気持ちが浮かんできた。
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