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 本来だったら加東は充分、外回り向きなんだろうけど。
 いや、いうなれば営業企画など、外回りの経験がなければ感覚も若干掴めない気がするが。

「流石っすよね宇田センパイ。加東ちゃんを引っ張ってくんのって」
「いや引っ張られたの、どっちかっつえば俺だし」
「そーでしたっけ。まぁ、加東ちゃんのコミュ力って営業に持って来いっすよねー」

 そうなんだろうけど。

「始めはどうなるかと思いましたけどねー。部長に粘着されて」
「まーなぁ…」
「ホント頑張ってるよね、シュガーちゃん」

 加東だけどな。

 加東の入社当時、昇はここにいなかった。加東がいなければ今もまだ、自分は外回りだっただろう。

 加東は珍しいタイプだ。しかし、3年程やれば「確かにな」とは、思う。
 人事で同期の、すました顔が浮かんだ。

「…あいつと飲みに行ってもなぁ…」
「ん?」
「人事の中嶋なかじま
「あ、そっすか」

 まぁ、渋谷にも木村にもピンと来ないだろう。

 中嶋と飲みに行けば間違いなく浦野に知れる…かもしれない。けどぶっちゃけ今日は特に自宅に帰りたくない。そして一人飲みも嫌だ。

 渋谷は既婚者だし、木村もこれじゃ来ないだろう。加東かなぁとぼんやりする。

 ふと、タバコでも吸っておこうかなと思い席を立つ。

 たまたま加東のパソコンが目に入った。
 文書が数行のみで殆ど真っ白だった。

 …多分、加東に外回りは向いていない。
 実は加東も今日、なんとなく不調だったりして、と少し昇の頭を掠める。

 そうなると仕方ない、一人宅飲みだなと、また溜め息が出そうになり、やめる。うん、タバコタバコ。

 とはいってもタバコを吸ったところで頭が真っ白になるわけでもなく、むしろ一息ずつ気は抜け自然とあのメールが頭に浮かんできてしまうのだから、調子が悪い。

 …まぁ、恋愛なんて、しかも3ヶ月だなんて、まだ本腰を入れていたわけでもなかったかもしれないけど。

 何より、どうあってももう、一切の連絡手段が絶たれたのだからやりようもないし、やりようの一つとして例えば「彼女の家に行く」…いや、一回しか行ったことがないな。
 正確な住所も覚えているかどうか。覚えていたとしてもそこまではちょっと…だし、何よりあれではなぁ…。

 スマホを眺める。やっぱり状況は変化していないらしい。

 まぁ無理だろう…やり場をどこかで見つけなければなと、魂が抜けた思いでまたデスクに戻ると、加東が戻ってきたところだった。

「はい、見つけちゃったんで。珍しくないですか?スイカ。季節を感じますよね。
 もし足りなかったら早く帰って、ご飯を食べてくださいね」

 ニコニコしながら、加東は木村にゼリーと、パックの野菜ジュースとスポーツ飲料を渡していた。

 確かにイケメン過ぎる対応。

「わーもう、ホンッットありがとう!」

 木村が椅子に座ったまま加東に抱きついたが、加東は表情を変えず「あはは、よかったです」だなんて返している。

 俺の、あの男を血祭りにあげているこの脳内とは真逆の無垢さだ。この笑顔。天使と表現する木村の気持ちもわかる気がした。

 ぱっと昇に気付いた加東が「あ、先輩」とコンビニ袋を翳してきたのでそうだ、と、昇はポケットを漁る。

「シーフードと明太子おにぎりです。あとリポビタン」

 ちゃっかり、こちらの好物を押さえてきているこの気遣いよう。

「悪いな加東」
「いえいえ」

 昇が財布を探しているうちに「はい渋谷さん、コーヒーもよければ。いらなかったら持って帰ってください」と、愛妻家にコーヒーまで渡している徹底ぶり。

 女子かっ。女子力高っ。

「わ、ありがと加東ちゃん。あとで」
「いえいえ、ついでなので気にしないでください」
「ごめんね、私も」
「それくらい良いですって。是非感想を聞かせてください」

 財布を探しあてた昇は、この空気は金を出すやつなのか?と思いながらも千円札を数えたが、「あ、先輩も…」と、加東は少し考えたようだった。

「後でご飯とかで全然大丈夫ですから」

 そんな加東はどうやら、タマゴサンドとメロンパンとスポーツ飲料のみが昼飯らしい。

「…んじゃぁ、」
「飲み行きましょ?俺も今日は飲みたいし」
「流石だね加東ちゃん」

 宇田さんならいっか、よろしくっす、と木村と渋谷が言うそれで場は、取り敢えず和やか。

 なんだよお前ら連れて行くぞ、あはははは、だなんて、うちのチームが「めちゃくちゃ仲が良い」と評判になるのも、加東の貢献が大いにある。

 …しかし、やはり真っ白な文書が少し気になった。

 だが、自然と加東との場は確保出来たしいっか、と、昇は湯まで入っているカップラーメンの蓋を開けながら漸く“現場”に戻る心境になれた。

 加えてリポビタンがある。午後はちゃんとやろうと、スイッチが入る。

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