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 21時くらい。金曜の煩雑な店内。

「ほんでぇ、とっつぜん来たメールこれよこれぇ!」

 頼んだつまみもまだ残っているし、加東もまだ、始めのビールをちびちびと飲んでいる。
 が、昇はすでに4杯目を消費していた。

「もっぱいいるかぁ?」
「あ、はい……」

 加東の返事もあまり聞こえないまま、昇は通りかかった店員に「すませーん、ビールと…」と声を掛けるが、加東は「あぁ、俺は違うの…」と改めてメニューを開く。

「俺また…この、中々…水割りにしとこう」
「あ、俺はロングアイランドアイスティーでお願いします」

 店員にちょこんと頭を下げながら笑顔で頼む姿。
 加東はいつもどこでも、あまり変わらない。
 
「…何ぃ?もしかして…酔っちゃった?」
「あ、いえ、まだ大丈夫ですよ、1杯目ですし」
「アイスティー?」
「あ、カクテルです。ウォッカとかの」
「ウォッカ!珍し。おっしゃれだなー」

 残りをくいっと煽る。
 「先輩、大丈夫ですか?」と心配された。

 水割りにしたし…酔いたいし。

「まー明日休みだしぃ」
「そうですね…。
 それで、そのメールは」
「あっそうそう!これだよこれ!」

 加東に促され、中断した話を思い出した昇は、あのスマホを操作した。

 「全く、」と加東にスマホを渡したタイミングで、加東が頼んだグラタン的な物と、刺身6種盛り合わせと、串の盛り合わせがやってくる。
 「ありがとうございます」と店員に対応しながら、まずはグラタン的な物を自分の前に確保したようだった。

「で、」

 と言った瞬間にもまた、いま頼んだ酒と餃子の鉄板焼がやってきて、ひとまずテーブルも煩雑する。

「…意外と食うよなぁ、加東」

 会社では玉子サンドとメロンパンだけだったのに。

「そうですかね?あ、先輩もチーズ焼きいりますか?」
「いや、俺は酒があればというか、他すげぇあるからいー」

 加東は嬉しそうに、チーズ焼きにスプーンを通したが、「熱いっ」とその、なんちゃらアイスティーに口をつけていた。

「あーあー、気ぃつけて、冷まして、」
「そうします。刺身食べよ…」

 マグロか何かを口に入れ、もにゅもにゅと旨そうに食べている加東に、ついつい老婆心のようなもので、「餃子も食え、食え!」とか、言ってしまう。

 驕り甲斐があるタイプ。
 好き嫌いも特にないらしく、だから見ていて気持ちが良い。

 ついつい酒を煽ってしまう。
 やっぱり、串は麦に限るなぁ…と、自分は串の何かを食べる。

 飲み食いしながら昇のスマホを操作した加東は「うわぁ、酷い」と、同意し返してきた。

「だよな、だよなぁ!?」
「…これは確かに仕事どころじゃないですね…」
「第一何年収って。あいつそんなこと一言も言ってなかったけど、」
「これ、相手の人が、」

 チーズ焼きに再チャレンジしたようだ、ふーふーしている。
 それ、熱い以前に味とか混ざらないかと思ったが、「送ったんじゃないですか?」と、どうやらそれは取り皿で待機になったようだ。

「まぁ、だとしてもきっと彼女さんが」
「元!」
「…元彼女さんが、そんなようなことをこのチャラ男に言ったんでしょうけど…」
「大体、年収っつったら絶対そのチャラ男の方が低そうに見えね!?」
「…ははは、わかりませんよ?
 まあ…先輩の方が真面目そうに見えますけどね」
「ったくどーせ遊びだっつーのって思うわぁ!」
「まぁまぁ、こんな女はほっときましょ?先輩の方が断然良い男ですし」

 加東は冷ましたスプーンを口にし、ようやっと「美味しい」と満足そうに食べる。それも可愛らしい。

「もういいけどさ、こうなりゃ生理的に無理だしぃ」

 まぁ、今朝の今日でまだ怒りの方が勝ってはいるが。似合わないと言われてもなぁ。

「加東はいねーの?なんか、いぃ人」
「俺ですか?
 ……いないですねぇ」
「…今の間!」

 加東は控えめに「はははは…」と笑う。

 …これは、絶対何かあるときのやつだ、外回りの時の人間観察的な勘がそう告げている。

「マジか?どんな?」
「本当にいませんよ。先輩が羨ましいくらいです」
「…そうかぁ?俺こんなじゃん?」
「説得力なかったですね」

 いつの間にか加東の酒はなくなっていた。

 自分はそろそろなと、頭のどこかが言っているので、まずは「すませーん、なんちゃらアイス」と頼んだところで「ロングアイランドアイスティーです」と、アシストのように加東が補足してくる。

「俺も飲もうかなぁ、なんたらティー」
「はは、じゃあ一口あげます。まだ焼酎、残ってるでしょ?」
「んう」

 加東はまた刺身に手をつけようとして、「あ、ない、エビ」と皿を眺めた。
 …そう言えば食べてしまったかもしれない。

「ごめ、食べたかも」
「あはは、いいですよ。海鮮好きですもんね、先輩」
「いや〜麦に合うんだな、」
「なるほど、大人ですねぇ。
 じゃあ串食べよ」
「おー、食え食え」

 加東のロングなんたらアイスティーはすぐに来た。
 「どうぞ」とグラスごと渡されたので、一口飲んでみる。

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