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 加東とは各々の時間で出勤した。

 昇が出勤するとすぐ、「あ、はよっす」と焦ったように部長のデスクに向かう渋谷。見れば加東が、また部長にネチネチされていた。

「ぶちょー、おはようございまっす」

 「あ、昨日の分は進みましたんで、」と加東を庇う渋谷に、仕方ないなと昇も向かう。

「おはよーございま」
「なんだ、次から次へと!俺は加東と話してるんだが、」
「何か」
「昨日の件だっつーの、」
「あ、それでしたら俺も今から加東に引き継ぎしたいんで、早めにお願いしてもらってもい」
「いま話してんだってば!」

 痛っ。

 ガツッと何かが昇の後頭部に刺さり、ふさっと落ちた。
 なんだよおいと振り向けば、浦野が椅子を少し流し「クリティカルヒッ!」と悪戯顔をしている。

 昇の足元には紙飛行機が落ちていた。

「宇田〜それ提出よろ〜、そんなにいると出し行けな〜い」

 …んの野郎っ。

 「なんなんだ次から次へ!」と部長がキレている怒鳴り声をBGMに「こんな織り込んでちゃどのみち出せねぇっつーの!」と昇は浦野に紙飛行機を投げ返した。

「はっは〜、そーでしたそーでしたぁ、はぁい印刷。よろしくな宇田〜」
「……浦野ぉっ!何してる貴様はアホか!」

 よっしゃ、引き取ってくれた。

 「へいへ〜い」とナメた態度の浦野を置いて「はいはいウチは退散しましょ」と昇は渋谷と加東を引き取った。

「えっ、浦野さんは?」
「大丈夫だよあいつ天性のバカだから。あとで塩飴でもやっとけ」
「…流石っすね浦野さん…めっちゃキャラ使ってるわぁ…」

 バックでは浦野が「はーいすんませーん、確認を〜」と欠伸をしながら対処している始末。

「あ、加東ちゃんおはよ!」
「おはようございます渋谷さん」

 デスクに戻ったあたりで「わ〜!!シュガーちゃんおはよおお!!」と木村も突進してくる。

「あはは、おはようございます。皆さんご心配をお掛けしました」
「お菓子〜っ!お菓子買ってきたよ食べて〜!アスパラガス!」

 え?となる加東に「じゃじゃ〜ん!」と木村がアスパラガスの袋を見せる。

「なんだろ〜?クッキーですか?」
「あれぇ!?知らない!?クッキーだよ多分!」
「俺も今日は妻に頼んでほうれん草持ってきたんだ、タッパーで」
「うわぁ、なんかすみません…」

 お返しにと、加東は二人に飴かチョコを選ばせていた。

「…先輩もすみませんでした。引き継ぎする前に、はい、チョ…鼻血出ませんよね?」

 なんだ?と思ったが少し思い当たり、「出ない出ないそんな血気盛んじゃない、さんきゅ」と、昇は平然と返すに努める。

 そうだよな、俺が平然だったとしてもこいつが平然かはわからないというか、こいつこんな形で…全くと、チョコを受け取っておいた。

 「でも宇田さん、彼女と別れましたよね」とか、「寂しくて血気盛んなんでは?」とか、残り二人もからかってくる。

 …ある意味普通だ…。
 これをわかっててやりやがったとしたら凄い、天性の営業観察力かもしれない。

「あーあー兎に角、はいまず加東。これな。直し。プチ会議したのもそれに書いてあるから。
 今日も引き続き優先は電気スタンドね。何かあったら明日までは変更可だから。金曜日朝イチで送る」

 昇は引き出しから昨日の書類を出し、「はい」と加東に渡す。
 すぐに書類を眺め始めるが、まだ始業前だ。

 …まぁいいけど、と、宇田はまた今日もチームのコーヒー屋をやろうかと「はい何飲む皆さん」と聞いてやった。

「あ、すいません、俺やりますよ」
「まぁいいから。
 渋谷は確かカフェラテだな、てゆうか手伝え。木村の今日の気分は」
「イチゴラテです!」
「はい加東は」
「じゃぁ…俺もカフェラテで」

 ぱっと着いて来た渋谷は「よかったっすね〜」と、心底嬉しそうに言ってくる。

「元気になって…まぁ、様子見はしながらでしょうけど」
「そうだなぁ、病み上がりだからな」
「なんか、前より元気な気がするの、気のせいっすかね?」

 そう言われて振り向いてみる。
 …そうかもしれない、どこがどう、というのはわからないけれども。笑顔かもしれない。

「どうだろうな……」

 カフェラテやらコンディメントやらを持ち、渋谷とそれぞれ前のデスクに渡して行く。

「あ、ありがとうございます」

 受け取った加東はふと、左耳に髪を掛けた。

 …あ、なるほど。
 左だと、もしかすると木村にすらピアスは見えないのかもしれないな。

 お菓子を食べあって、ふいに加東が木村の方を見ると、「あれ!シュガーちゃん…なんか違う気がする…」と木村も気付いたようだった。

「貧血は治りまし」
「あ!ピアスだ!ピアスしてたっけ!?」

 やっぱり。

 しかし渋谷は「してたような気もする…」と微妙な反応。やっぱ、そうだよなと思ったが「してましたよ?高校の頃に開けたんです〜」と普通そうに加東は言った。

「可愛いねそれ。女の子用?ピンク?肌色?でも似合ってる〜!」
「いや〜、お下がりなんでよくわからなくて」

 「もしかしてお姉ちゃん!?」と聞く木村に軽く加東が噎せ、そして睨むように見つめてきた。

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