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……そうか。
…何故かわからないが、その控えめな笑顔に、確かに嘘でもない本音だろうと思ったら泣きたくなって、昇は少し上を見た。
加東は本当にケーキを冷蔵庫にしまってしまい、「早く出ちゃいましょ」と言ってくる。
こうもなればその判断を受け入れるしかない。カモン、ツインエゴイスト。亡霊と獣に噛み付いた。これを忘れてはいけない。
誰かがいて、その中で何かを拾い集めるような。その映像を垣間見ただけだ、自分は。
何事もなく鍵を閉める。ここは加東の家だった。
悪い思い出ばかりではなかったとしても、鞄二つ分の重さしかないのかと、哀愁を感じた。
歳かもしれない。最近こういった家族系、俺弱くなってるよなと、細い加東の背を眺める。
「…スッキリしちゃったかも、なんか」
「…そうだな。これで足りんのか?」
「足りなくなったら後で引っ越しの時にでも来ますけど、概ねそれで事足ります」
「そうか…」
「あんまりそんな顔しないでくださいよ。僕も惰性でしたから」
自分はどんな表情でその目に映ったのだろうか。
エレベーターが来てふと寄り掛かった加東がポツリと「考えたこともなかったんです」と言った。
「僕がどうしたいとか、そういうの。だから、なんで辛かったのかもわからなかった。誰かに言われないとなんてね…。これは、先輩が言ったんですよ?」
「…なんか言ったっけ」
「シンプルに「考えるから」って言ってくれたことです。
仕事してみたりしても、節々でなんか、感覚が広がっていったというか。僕も確かに、誰かが倒れたらきっと心配するよなとか、本当は凄く恵まれているんだなって、そんなことを今日は考えました」
「…そうか」
「だからこそわかんないんですけどね」
ちらっと見上げてくる加東に「何」と、なんだか思ったより冷たい言い方をしてしまったが、「別に…」と言いつつ何かを言い残している余韻。
「どうしてなのかなって」
「…何が?」
「いや、なんか、お人好しですよね、やっぱり」
「…かも」
「そのわりにわかってないんだから」
「え、何が?」
ふふ、と嬉しそうに言う加東の言いたいことが昇にはいまいち見えてこない。
「評価の話です。僕だって気付いてなかったのに!」
「ん?」
まぁ確かに、お前が思ってるよりお前は純粋で可愛い良いヤツだよ、そうは思った。
なんとなく嬉しそうな加東を見て、まぁいいかと片付ける。まだまだ、読めないままで微妙に話は噛み合わないけど。
…例えば、これから何かがあったとする、こいつと。どうだろう。ただまぁ仕事でも、…どうやらプライベートでも、相性は悪くないようだ。
「またひとつ、悪いことしちゃったかな」
けらっと、そう言う加東に昇は何も言えなくなりそうだったが、「いや、違うだろ」とぎこちなくなりつつ、頭を撫でた。
車に無事戻り、わぁ、どっと疲れた。何気に緊張していたらしい、気分を変えようとスマホを弄る。
「ついでだから何食いたい?」と聞くと、「なんでもいいです」と、一番厄介な答えが返ってきた。
「んー…じゃ、なんでもあるしファミレスね」
「あ、はーい」
実際、これで全て解決なわけじゃないよな、と頭にはある。これから先に…と考えているのも不思議だった。
それは、プラスチックのようなもの。たった一つの小さな光。
メロウなような、ポップなメロディが流れる。
「あ、この人もなんかちょっと…変わってる!」とこっちを見た加東の左耳にあるピアス。
「そうだな」と昇は上の空で返し、考えた。
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