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しかし、過去に誠一は大きな市場を解散させた経歴もある、だから自分達は今こうしてるのだ。
「潰すというより、また細切れにするのかなぁ」
「あーまぁな、あいつは姑息だからな。
しかし正直、八十田と殺るなら俺は降りたい。ぶっちゃけ花咲のときはサツも絡んでたし内部抗争カウントダウンだったから潰せたんだ。
横からかっさらって、さぞや出世したことでしょうねぇ、あの腹黒野郎は」
ふぅ、と溜め息を吐いた江崎は「まだいいや」と言った。
「あいつがただ大口叩いてりだけでもし、八十田持ってんのがその先輩とやらじゃなくサツだったら面倒だし」
「あり得ますね、あの規模じゃ。寧ろその方が自然かもしれませんね、マトリは動けないみたいですし」
「だとしたらあそこも確かにカウントダウンだ。デジャブかよ」
「…やり手で厄介ですね、そのマトリ」
「全くだ。手口はサツと変わらねぇのに。 まぁおかげで出遅れることはなくなったみたいだけどさ。
俺は自分の器をわかってるつもりだ。暫くウチはそれに関して膠着、静観とだけ言っといてくれ」
「わかりましたー」
いつかこっちに来なきゃ良いですけど、とタマが呟く。確かにそうだろう。
前回と言い今回と言い、誠一は結構なギャンブラーだ。玉を打っている感覚でしかないだろう。
…勿論、それに乗っている自分も江崎も、人のことは言えない。
随分無難な答えだ、事務所では違う話になるのだろうか。しかし、そこは自分には関係のない場所だ。
この立場を続けるには、フェアでなければならない。この距離感は自分の読みだけが頼りになる。
ケータイをしまうとふと、江崎が後ろから手を回し左手を握ってくる。
そしてぼそりと「ごくろーさんでした」と棒読みのように言ってきた。
「…個人的な話。今度お前があいつに殺されそうになったら、俺があいつを埋める」
「…それ聞いたら言えませんよ、新さん」
何を考えているのか、江崎はぼんやりと宙を眺めている。
この目の色をする江崎は大体、簡単な何かを言いそびれている。誰が、とか、何が、とか、そんな簡単な何かを。
しかし、自分は特別何かを出来る人間ではない。
そのまま何も言わずに事務所のビルに着いた。
江崎とタマが事務所のビルに消えていく背中を見て、少し前のことを思い出した。
ガサが入ったときだった。
現場は当たり前に騒然とし、混乱を極めていた。
楽器を鳴らす自分達ですら掻き消されそうな雑踏。そのうち観客すら外に出されてしまった。
メンバーも動揺して一度は演奏を止めたし、自分も動揺をしなかったわけではないけれど。
でもここは今、違う場所だと、自分はギターも再開し、歌も唄い続けることにしたのだ。
踏ん張れるように、高く設定したマイクに少し背伸びをして。
誰かが入ってきたのは見えた、それが腹黒野郎こと平良誠一という男で、その後ろから制するように堂々と入って来た背の高い男は、カウンターで飲み物まで受け取り備え付けの手摺りのような椅子に座ったのだ。
それが、江崎新という男だった。
江崎はもう一杯を作って貰い、それを誠一に渡そうとしていたが、誠一は流石に、カウンターから出てきたバーテンを外に促していた。
どちらがどういう人間かというのもすぐにわかった。それが、訳をわからなくした。
徐々に徐々に楽器を再開したメンバー達。せめてあと一曲だったんだという意地が自分にはあった。
なんでもいい、けれど歌だけはどうしても好きだったから。
唄い終えると誠一は手帳を見せてきた。事態は、先輩達だろうとすぐに理解した。
江崎は手を叩き「良い唄だな」と自分達の方に歩んでは「このビルのオーナーだ」と、ごつい名刺を見せてきた。
「いまガサ入れっつーやつが入ったところだ。申し訳ないが俺はよくわかっていない。一緒に来てくれないか?」
江崎は特に凄んだわけではなかったが、とても静かに言った、それにはこちらを従わせるだけの雰囲気があった。
実際自分達が無理矢理最後の曲をやっていたのは虚勢でしかなかったし、雰囲気があろうがなかろうが凄まれようがどうしようが、普通に着いて行っただろう。
見るからにヤクザな長身は調子が狂う笑顔でニヤッとし、「あぁ、いるか?」と、先程誠一に断られた酒を渡してきた。
いやこれ兄弟のやつなんじゃ…と躊躇っていると、切れ長の目が少し開いて「手ぇ震えてんな」と、また静かな声で言ったのに、要らぬ誤解を受けたと、従って受け取るしかなくなった。
そのテキーラは結局氷が溶けるまで手の中にあった、あとはどうしたか覚えていない。
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