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「…お前特売品の良さわかってくれないからいい、俺が行く」
「えっ」
「えっ」
我に返ったようにタマが「いや、ダメです会長」と江崎を諭し始める。
「覚えますので同行」
「大丈夫大丈夫、まさか俺がスーパーの特売漁ってるとか、誰も夢にも思わないだろ」
「いや、」
「危機感ないんじゃないんですか?貴方分派の会長でしょ?殺されないの?」
「おうよ、第一そんな一般的なところで殺しやるヤクザはいねぇよ、あと慧、お前に言われても全く説得力がない」
「確かに…」
「大体逆に怪しいだろタマ。男二人でスーパー行くか普通」
「いや、そこは行きますよ普通に」
にゃっはっは、と明るく笑う会長はどうやら機嫌が良いらしい。
こんなんじゃ、タマは気が気でないだろうと「みんなで行きましょうか…」と提案して思い付く。
「てゆうか、俺が行けば良くないですか?どうせ事務所は入れて貰えないしその間暇で」
「バっカそれじゃ面白くないだろうが、わかった、もうタマ任せる、いいわ特売じゃなくても所詮数十円だし。ついでにお前も食ってけ。お前はアレルギーないよな?」
「え、あ、はい、花粉のみですが…。いや恐縮ですがおわかり頂いて助かります会長。後でメモください」
補佐が渋滞している。まぁ、そりゃそうなんだろう、この人は変わっている。
「なんか、俺のせいですね、すみません」
「いや…」
いつも通りクールな調子を戻したタマは「加賀谷くんのせいではないでしょう、別に」と、本当に凄い、一瞬にして“お前なんて嫌いだよ”調子に戻った、流石はヤクザだ。
直接聞いたことはないけれどわかっている、というか当たり前だ。自分はマトリとも繋がっている。
まして、この人たちも対処に困る「堅気」だ。ヤクザのヤの字もない。
自分がタマの立場ならこんなヤツ、歯痒くて仕方ないだろうと思う。故にいつも顔を上げることが出来ない。
本当は関わり合いになるはずもなかった両者。それを繋いでいる自分。
だから、適当に利益になれば捨てられると思っている。
勿論そのときには、いくら一般人とはいえ片足を突っ込んでしまっている、自分は生きているのかわからない。
「俺は君を守らなきゃね」
誠一はそう言ったが、誠一だって警察ではないのだし、わからないのではないかと思う。
そして正直、別にそれは望んでいない。
先まで歩けば曲がり道にぶち当たり、また先まで行くと自分がさっき立っていた場所が見えてくる。円に似ているが道順がある関係。
この三角関係は最早、誰が抜けてもリスクがある。
しかしもしも、橋を一本抜いてみたとしても、残った道はなんら変わりがない、ただただ近道を失くしただけの存在になるのだ。
自分は、そこにいる。
必要であればまた新しい橋を架ければ良い。
ただ、お宅らのギャンブルに乗っかっただけだと割り切ればいいのに。
自分はどちらも選べない人間なんだ、少しわかって欲しいなと、江崎の上機嫌の横で思う。
僅かに、罪悪感が湧く気がするのだ。
「あ」
ケータイがピコピコと通知している。誠一だった。
察したのかケータイを眺めてきた江崎は「はいはいなんだって?」と興味深そう。
開けば簡素に「あの辺でインド辺りと取引してる組聞いといて」と書いてあった。
「インドか……」
江崎は含みがあるように目を細め「アレ、苦かった?」と聞いてくる。
「え、いや、覚えてない…」
「ふーんじゃあ違うな…。
あの辺俺ら一軒しか持ってねぇからテリトリー把握出来てないんだよね。まぁあの腹黒サイコでも把握なんて無理だと思うけど、知ってる限り組教えろって送っといて」
「わかった」
言われた通り、今の話を噛み砕き「あの辺カオスだからわからないって。知ってる組教えてだってさ」と送っておいた。
結構すぐ、「城島、有明、一條とお前ら」と返信が来る。
そして追記で「江崎さんは知っていると思うけど、お得意さんで結構な数を八十田連合が持っている。けど、八十田は先輩が持ってるから今は動けない」とまで来た。
「へぇ、八十田薬やってんだな。マトリが言うなら、そうだよな」
「…あんな狭い場所でこんなに入ってるんだ…」
「倍率高いからな。ここまで来ると少しくらい見落として埋まってないところもあるだろうが…タマはどう思う?」
「そうですね…。見たところ加賀谷くんが持ってきたのは新種でしょうし…インドは最近流行ってますからねぇ、八十田もやっている可能性はなくはないでしょうけど、やはりどこか、新参が入り込んだんじゃないでしょうか。
もしくは単に売人側がこちらの事情を知らず、東京ならどこにでも売り出していて、たまたまその日そこに当たってしまった、とか」
「だよなぁ、八十田のジジイは頭固いもんな。
しかし平良もバカだねぇ、その口調だとまた先輩潰ししようとしてんじゃないの?あいつは純正のアドレナリンジャンキーだよな、ヤクザもビックリだわ。
まぁ平良も八十田も共倒れてくれたらこっちは儲かるけど。八十田はそもそも俺やあいつみたいなぺーぺーにゃ潰されねぇよ。どっからその自信が出てくんだか」
話について行けないだけに「そうなんだ」としか言えないが、誠一がアドレナリンジャンキーで自信家だという点は納得出来る。
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