13


 石丸くんとも、たくさんの話をした。
 ありきたりなことで、あまり互いに踏み込むこともなく。

 いつも通りヘタクソなギターを教えていると、石丸くんはふと「実は彼女出来たんだけどさ」と言った。

「え、そーなの?」
「うん。ギター効果」

 ビックリした。
 だってずっと、こうしてるじゃん、と。

「慧はどう?」
「いやぁ……別に…」
「モテるよな?ギターも弾けるし…彼女いたことは」
「あるけどギターは弾けなかった」
「…え?マジで?」
「うん」
「一個聞いていい?」
「何?」
「ど、童貞は…」

 うーん。

「捨てては、いる…」

 あと…あれはカウント?

「マジで!?」
「うん、まぁ…」

 間があった後、「うっわぁよかったぁ!」と何故か安心された。

「なんと言うかでも本当に一瞬…とかばかりだから多分…彼女カウントじゃないと思う」

 事件前の病みすぎた時期に気持ちが荒んだ。多分あれが…生命危機のやつ?なのかな…?

「…ま、いいや。ちなみに初は」
「うーん……言う?それ」
「あ、まぁいいんだけど…聞きたいこと聞けそうだから…」
「何?一体」
「…実は、さ…」

 石丸くんは物凄く言いにくそうに「俺、勃たなくて…さ」と言った。

「ん?」
「その…いざ、前にしたら…。俺、変かな?慧どうだっ」
「えっと…まぁ、気持ちはわからなくないと言うか…うーん、でも、違うのかも…」
「違う…?」
「…苦手意識がちょっと、強くて…中学は気持ち荒れてるから感が、あって…」
「中学!」

 まぁ多分…確かに…早い。

 俺が母とおじさんの交わりを目撃したのは丁度、中三のあの時期だった。

 だから、何故そうされたのかという意味が、わからなかった。
 実際痛くて、自分はどうなってるのか、あの場ではわからなかったし。

「うーんと…その…あ、うーんでも…」
「めっちゃ気になるけど…」
「…多分、石丸くんが思ってる感じじゃない…ちょっと、わかるけどわからない感があって、あの行為に…」

 こんなことがまさかそう繋がるとは思ってなかったな…。
 しかし、察しの良い石丸くんは「…もしかして、複雑?」と聞いてきた。

「うん…多分…。
 まぁ、俺はいいとして…どうしたの、石丸くん…」
「いや、まぁ、じゃぁ…えっと…もし、不愉快だったらどうしようかと…」
「うんわかった、やめる?」
「あいや…実は…。
 ちょっと、いざ目の前にしたらAVと違ったというか…うーんそうじゃなくて、実はダメで、ダメってなって別れそうなんだわ。てゆうかもう壊滅というか…。慧と一緒で、なんか、多分一瞬にしてというか…」
「…ん?」
「なんか…気分がよくなくなって…。
 気持ち悪かったら言ってな。俺、試したようなもんでさ…実はAVも、いいと思ったことなくて…でも勃たないわけではなく…」

 …俺も信仰心とかあるわけじゃないのに、なんだか…だからなぁ。
 石丸くんは俺を気まずそうに眺めた。

「あの、まぁ、あの話からとかなんだ、実は」
「…ラッキースケベ丈の?」
「そう…」
「うんまぁ確かに俺も聞いて「怖っ」て思ったけど」
「だよなだよな!?
 でも、おかしいんだ…お前とホンザワがヤったって聞いたとき、俺勃ったんだよって、…あ、」

 どうやらわりと真剣なようだ。
 俺は彼の肩を叩き、「仕方ないよね!」と言っておいた。

「え?」
「んー…あんまり話していいか、わからないんだけど…。
 俺ちょっと母親と色々あって…それから女の子、ちょっと苦手になっちゃったんだ。ちょっと、こわい…じゃなくて、おっかないことが」

 ん?でもこう言うとなんか、母親とヤっちゃった雰囲気じゃないか?
 案の定少し伏せ目になった彼は「…マジで結構ヤバい?」と…こちらの様子を伺うような。

「…ちなみにいま、石丸くんのことは気持ち悪いと思ってない。と言うことで……ちょっと、話せるかわからないんだけど…話してみても…いいかな?俺がなんかなったらほっといていいから」
「わかった。いいよ全然。…ていうか、俺ももしかして相談乗れるかも。俺も実は母親とうまくいってないっつーか…」
「え?」
「まぁ、多分でもましだよ。大丈夫な範囲で、言ってみ?」

 …そう言われると、少し楽になるような気はした。
 切れ切れだけど、俺はあれから初めて、あの時の話を少しだけしてみた。
 石丸くんはただ眉を潜め「そっか…」と言った。

「…ごめん、言っていいかわからんけど、少しよかったというか…」
「…は?」
「いや…実は………。
 俺、いつも頭の中で…ごめんな、嫌だったら。慧がちらつくんだ、なんか、そういう時は」
「…ん?」
「て…今言ってて気付いたって言うか…」

 ふっと石丸くんは股間あたりを隠し、恥ずかしそうに「…ほんっとごめん、」と辛そうに言ったけど。

「別に?」
「…ん?」
「だって、フロイトを読んだ、難しかったんだけど…。あと、ばあちゃんが言ってた。長野の男は理論的だって」
「…んん?」
「それは自然なことで、仕方ないでしょ?」
「え、」
「…変なこと、言ったかな?」
「…いや、ちょっとよくわからない…」
「…まぁ、そうだよね。こっちこそごめ」
「あいや、そうじゃなくて」
「人間どうしようもないことってたくさんあるらしいから。と…。
 実際ね、怖かった、全部。でも俺は、取り敢えずいまちゃんと勃った石丸くんは、どんな形であれ」
「…慧、」
「ん?」
「それは、そうでも、違うよ」

 …その言葉に。
 少し、刺されたような気がした。

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