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 ふっと、目が覚める。
 随分と昔の…少しだけ切ない夢を見た。

 あの人、どうしたんだろうな。
 そういえばこの人、あの時のあの人と同じくらいの年齢かも。

 「んー……」と、真っ暗闇の中で抱き締めてきた腕に、ビクッとしてしまった。

「ん?」

 はっきり起こしてしまったのかもしれない。

「んー…」

 寝ぼけたままだけど、朝勃ちした硬いソレが間に挟まり、あの記憶がちらつく。

 …忌まわしい。

 身体の向きを変え、しがみつくようにジャージをくしゃっと握った。

「…ん?」

 すっぽりとその腕に収まると、とても低い声で「起きた?」とはっきりした発音。一応…脛で挟んであげた。

「起こしちゃってすみません」
「ん?いや…?」

 殺した息を吸って吐いているからだろうか。
 起きて、電気スタンドを点けようとする彼の胸板につい、額を押し付け顔を隠す。

 彼は察したように、少し背を撫でてくれた。
 髪を、撫でるように避けられる。
 そっと顔を上げると目が合い、指で喉仏をすりすりされた。

 多分、彼は俺を飼い猫か何かだと思っているのだ。

「どしたの」
「…いや…ちょっと…」

 彼が俺の言葉を待っている雰囲気に耐えられず、足ですりすりすると「こらこらこらこら」と窘められた。
 誤魔化すように、俺は彼の腰骨に足を乗せぎゅっとくっつく。

「流石にこの体勢は無理じゃない?」
「…まぁ、確かにしたことないです」
「だよなぁ?ほっとけば治るから。どしたの」
「んー……」

 …あまり言いたくないな。

 ジャージ越しにくりくりすると「こらこらこらこら乳首を弄らない」とまた窘められてしまった。

「…あんなにしたのに」
「だよな?ムラムラしてるように見えないけどどしたの。ビクッとさせておいて言うのもなんだけど」

 バレてるらしい。

「嫌な夢でも見たか?」
「…んーまぁ…後ろからって怖くないですか?なんか」
「わからなくないけどお前、堅気じゃん…」

 乗せた足を退かしぎゅっと抱き締め「よしよし」されるのに落ち着いては、くる…。

「…あれ、痛かったとかないよね?大丈夫?」
「はい…」

 …当たる…。
 すりすり手で触れると今度は「ちんこを弄らない、」と窘められた。

「その気じゃないじゃん」
「…いやぁ抜くくらいならと…」
「別にいーから。ほらちゃんと治ってきて」
「だってぇ、来られたらムラムラしてきますよ?こっちも。男ですか」
「お前って女みたいに寝るよな」

 言われてはっとし、しかし言った本人が気まずそうに「あ、いや…ごめん忘れて」とどこかを見る。

「いやぁ、あんまり気にしないんで、大丈夫ですよ」
「そうか?」
「ちなみに、なんで?」
「え?いや…なんか、ごちゃごちゃと考えてさ、あ、あんまセックス好きじゃないっしょ」
「…え?
 んー……いやぁ…」
「あほら考えてる」

 いやいや何この誘導尋問…。

「いや、実際人によるというか…あれ、満足させてない感じ」
「いやそれはないんだけど、うーん、よく言うじゃん?女は夕飯考えながら出来るって」
「…言いますか?」
「うん……いや、俺のあれが悪」
「あ、いやそれはないですよ、俺今「この人が一番良いよな」って考えたんで…あ、」
「ほらね。ほーら」
「んー…」

 腑に落ちないなぁ…。

「なんっつーか…こう、キスとか前戯とか余韻の方が好きじゃね?なんか、見てると」
「…まぁ大抵は…んーいやでも江崎えざきさんの場合」
「あ、比べんな比べんな、今言ってて変な感じすっから。
 いやまぁ俺もそれなりに落ち着いてきたというか雰囲気派なんで、それで結構なんすわ」
「…それも女の人っぽい気が」
「よく言われます、ハイ。
 先日ビジネスセックスしたキャバ嬢にテンション高めで「ワイルドなのにガッツいてなくてすごーい」って微妙な言われ方をされ、もうこの女と二度と寝ねぇと思いましたねぇ」
「…っはは!」

 ちょっと面白い。

 「笑うなこら」と言われたけどうーん、良い評価な気がするんだけどなぁ。

「あの女ガツガツガツガツとよぉ、脱いで3秒。俺は棒か、ディルドかっつーのって、あんな野郎みたいな女ビビるわ、後半ディルドでいっか、とすら思ったよ。まぁビジネスなんでいいんすけどっ。逆にこっちが全っ然イけねぇわって」
「はは、これ話せるの男同士特有な気がしますね」
「あ、まぁお前なら大丈夫かと思ったけどあ、なんか…」
「いえいえ青春っぽくて良いですね、思い出しましたよ」
「…あそう?え、でもお前もじゅーぶん今第二次青春じゃないの?20前半とか、多分」
「…そうかなぁ?第二次青春?」
「まぁわかんねぇけども」
「…ちなみに江崎さんは何がきっかけで?」

 何とは言わなかったが「お前な、いきなり「寝ますか?」とかあんな純粋そうに言われたら心配になるわ、」と、全く想定していなかった答えが返ってきた。

「え?」
「いや、覚えてねーの?」
「あ、いや覚えてますよ?でもなんか…わかってましたよね?」
「ん…まぁ、」
「ムラムラしてそうでしたよね?」
「んー…どっちとも…てか、色々あって血が滾って」
「まぁ、いいんですけど」

 すっ飛んじゃったな憂鬱。
 手を入れると「ちんこを」と言われたので「青春ですぅ〜」と答えておいた。

「は?」
「まぁ、まぁ。これくらいは」
「……えー、どんなだよ」
「しませんでした?」
「しないしない」

 それでも特に拒むこともなく、「もぉお、」と言うので、一つ、聞いてみようと思った。

「江崎さん」
「…なんですか、」
あらたさんって、呼んでい?」

 ちょっとしたドキドキしたのだけど、あっさり「別に良いけどどした?」と言われてしまった。

「…青春です。まぁ、二人のときは」
「…別にいいのに」

 少し湿った息になってきて、新さんもぎゅっとしながら手を入れてきたので「秘密っぽいでしょ?」と言っておいた。

「かぁいいなぁ、お前は」
「ふふ」

 …もっと、抱き締めていて欲しい、なんてね…。

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