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 ダルそうにディルドを手にしたシルバがなんの躊躇いもなく「おらよ、」と一気にそれを奥まで突っ込んできたのに「あぁぁあっ!」と悲鳴が出て、喉が本格的に切れそうだった。

 身体がビクビクする、体勢も左から崩れるのに、シルバはぐりぐり、ぐりぐりと掌でディルドを動かし「俺ちょっと休憩するわ」と言うのが…恐ろしい。

 最早涙や汗すら出尽くしたような状態、眩暈がしそう、これは…アレルギーでなくても死ぬ、そう慧が焦った瞬間、腕にちくっと何かが刺さり振り向けば、ビールを口に含んだシルバがそれを口移ししてきた。

「脱水で死んじゃうとめんどくさいから」

 …ヤバいこいつ。

「んあっ、」

 完全にパタッと身体の力が抜けた、同時に股間もしなり、ゴムが外れそう。
 それににやっと笑い頭を撫でてきたシルバは「あーメスイキ成功したね」と言う。

「な………」

 言葉すら浮かばない。
 なんだ、なんだこれは一体。

「あ、あとさ、お前の仲間と…なんだよ、恋人いたんだね、平良さん?通知うるせえからテキトーに返したんだけど」

 スマホを投げて寄越された。アプリ画面だった。

 それは半井のページで、確かにたくさんメッセージが来ている中、会話の前後の脈絡もなく「家についたよ」とだけ返信がされている。

「俺そろそろ自バンド行かなきゃなんねーし、いま電話して」
「……は?」
「ケータイはその間取り上げるから」
「…待って、ここどこ…」
「呼ぼうったって無駄無駄。俺ん家俺ん家。それともあのクリスチャンにする?
 さぁて。あー君は若いからな、手錠と結束バンド…結束バンドにすっか。暴れたら多分血凄いからね」
「…あに、ってるか」
「あぁ!?」

 ディルドをぐっと押し込められ腹が破れそう、「…ぃません……」としか出ていかない。舌が回らないらしい。

「水は風呂場ね。早く、電話」
「…この、状態、で」
「あんか文句あんの?いましか伝えらんねーよ?可哀想じゃね?んどくせーな、」

 シルバは自ら半井への通話ボタンを押し、耳に充ててきた。

 半井の事だ、スマホを握り気が気じゃなかったのかもしれない。すぐに出て『慧、』と、声が切迫していた。

「…からい、ぉはよ、」
『…慧だよね!?』
「…ん、」

 シルバを見れば今にも「ディルド弄ったろか」という雰囲気。下手気なことも出来ないが、そもそも思い付かない。

『ねぇいまどこ!?』
「ぃえ、に、」
『嘘だよね、知ってるよ、あの人から』
「だいじょ…だから、喋んないで」
『…は?』
「………飲みすぎて具合、さいあくで…」
『………慧、落ち着いてる?』

 黒田が出た。

 スマホは取り上げられ、次には「平良誠一」になっていた。
 誠一もあっさり「もしもし加賀谷か」と…態度が業務的なことに、少し希望が見えた気がした。

「…ぁい、」
『ひっどい声だな。昨日既読スルーされたけど、また女ん家か』

 ……希望が、見えた。

「……てへ」
『死ねてめぇ、さっさと帰ってこいよ』
「ぃま……っは、ぁ具合、めちゃ、悪い…ぅつか、酔いで………」
『はぁ!?』
「………ちょっと、ぉお声っ、出さ」

 面白そうな態度でディルドを出し入れされる。つい、「っんあっ、」と慧が声を出すと、誠一は一度黙り込んだ。

『…何してんだお前』
「…んにも、」
『あーそーですか。もう帰ってこなくて』
「んな、こと……言わな、で、ぅお願い……だから、んあんた、ぁけ…だから、」

 …引き伸ばすにしても自然にしてもこんなの、言ったことないな。

『…聞き飽きました。死んでこい、帰って………くんな、っの、バカ野郎が、』

 …セイさん凄い演技。

 つい「…はは、」と笑い出したら、変だ。
 腹の底から「んっはははははっ、あぁ、ははっ」と笑い声が出てきたところで、通話は切られてしまった。

 喉が痛いくせにくつくつと熱くなってくる。

 ディルドが抜かれた。
 はぁ、もうヤバいなと「シルバさ、まだ、じかん…ぁる?」と聞いている自分、もう体力はないはずなのに、またギンギンだ。

「っはは!OKOK!」

 心の中の「完全敗北」という言葉は右斜め上15度、完全勝利が左斜め下15度の理性で慧は生かされていた。

 腕を結束バンドで縛られ、またディルドを突っ込まれる。
 そしてシルバはCDを入れ替え…本当にその状態のまま、出掛けてしまった。

 何時間こうするのかわからないが時間の感覚もないまま頭は精神薬より早く巡っている。

 狂ったようにずっとリピートされている甘い声と20フレッドあたりの鋭い高音…横に置かれたボトル。

 むず痒いままのディルド。慧は人生初めて、床オナみたいなことをしようとしたが…あれを耳鳴りのように思い出し……。

 …あれ?なんでいま思い出した?

 デパスの離脱症状が始まるにしても…早いな、ぼーっと死ぬ方法を考える、頭が重い、割れそう、痛い、気持ち悪い。

 考え出したら一気に…尋常じゃないほどの希死念慮が流れ込む、怖い、怖い怖い怖い、死にたい、なんだ、なんなんだこれは…!

 プラスチックの匂いがしない。

 舌足らず、英語なのに「ドラッグストア」やら「スーサイド」やら意味が直下型で脳を揺らす。

 …人生で初めてだ、あの時だって音楽が聴きたくて堪らなかったのに。いまはこの甘い声が…おかしくなりそう、耳鳴りがする。

 そうか、薬切れか…この異常な性欲の副作用は昔医者が言っていた副作用は作用が正常だから起きるのだと勘弁してくれいま自分は相当ラリっている。

 震える足から落ちるようにベッドから降りた、ディルドが抜けて暴れ狂うでもまずその棚、カッターかなんかない?いや腕痛い切れてそう…。
 見れば、予想以上に血が出ていた。

 間奏…ドラムも重い、半井の顔が浮かぶような“どくりんごうりはどこにいる”。

「っはは…」

 火照っているからかな。なんの拍子で食い込んだんだろ。

 結束バンドを切ってわざわざリストカットしてみなくたって、水でも出しとけばいいんだ。

 いまなるべきだろうが、アナフィラキシーショックめ…。

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