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「ダメだ拾えない」

 誠一は息を吐き江崎に言った。
 久しぶりだな厚労省と、江崎は頭を回していた。

「地下かな」
「…家宅捜索に入っているがとっくに24時間が経過した。例えブツが上がってもヤツは自宅にいない、」
「なるほど、人拐いは警察の領域になんのか。お前には無理だよなぁ、こうしてるし。
 間違いないのか、その田中たなか[#ruby新太郎=_しんたろう#]ってヤツに」
「多分な」
「…多分じゃねぇんだよ、てめぇっ」

 江崎はつい、誠一の胸ぐらを掴んだが「わかってますよっ、」と誠一もつい、苛々したように言い返してしまう。

 わかっている、そうだ。互いに冷静でいなければ、頭が狂いそうなのだ。

 江崎はぱっと手を離した。

「…MDMAはポツポツと…ありゃ個人売りだな。じゃあシャブはどうかっつえば」
「まぁご存じの通りほぼシャブだからな、若干増えたとか」
「お前のような理数系が多くて困る、んなのずっと左肩上がりだわ。
 …緊急搬送履歴やら」
「怖いこと言わないでくださいよ。でも根本から訂正するとシャブにプラスされる部分ですね“メチレンジオキシ基”には…まぁきっと理数系じゃないんじゃわかりませんよね、化学式で検索してどうぞ。恐らくアナフィラキシーで誤認することはな」
「可愛いなこの絵、イモムシみたい」
「…構造式ですけどねっ、」

 ポチポチスマホを弄る江崎に畜生、気持ちわかりますよと思った俺ムカつくなと思いながら。

「でーも、まぁいーんだわ。俺なら相手が死んだら埋めるし」
「…だからいちいち怖いことを」
「なんで裏ルートで洗えないかわかるか、正規ルートだからだ。正規ルートで真っ先に浮かぶセックスドラッグはと、考えた」
「…はぁ?」
「てめぇマトリだろ。田中新太郎がどこでキメセクパーティーしてんのか裏取れたんか、」
「…わかった、止めよう。悪い気が立ってる、結構いま限界だ」
「生ぬるいこと言って」

 誠一のケータイに着信が入った。
 黒田だった。

「…もしもし」
『もしもしマトリさん。
 昨日の話ですがライブ主催のメンバー、ひとり捕まえました』
「…変われ」

 江崎はそう言ったが誠一は構わず「誰だそいつは」と譲らない。

『ディッセンバー・パールハーバーのベース、ミサトノリヒロです。彼曰く、昨日のライブ終わり、楽屋には慧のギターが残されもぬけの殻だったらしいです。
 彼は終わってすぐに帰宅したので状況把握が出来てないらしいですが…メンバーは…』
「つまり、その後のことは知らないんだな?」
『はい』
「…メンバーの名前、誰かアプリ使ってたら一人でも良い、教えてくれ」
『例の、真鍋の友人がそのミサトなんです』
「なるほど、わかった。
 大丈夫、こっちには拷問のスペシャリストがいるから」

 てめぇ覚えてろよと江崎が舌打ちをするなか通話を切り、「ケータイ会社に個人情報の開示請求をする…が、」と誠一はサーバーで単語検索を掛けた。

 どうやらディッセンバーには誰か、全科者がいる。

「なるほど、自社レーベルねぇ」
「江崎さん、」

 呼んだ誠一は眉間のシワを押し「すまない」と言った。

「次に言ったらぶっ殺すぞてめぇ」

 …人を殺したヤツの目には、大抵光がないのに。

「悪かったなクソ野郎。ちなみに見解は」
「色々あるが大体決まってる、男を連れ去ってるからな、ニトライトだろ」
「…っわめんどくせぇな、素人だと…本気で質が悪そうだな、んなバカは使い方もわかってねぇだろうし」
「実際ひとり死んでるしな。お前ってゲイ?前から思ってたけど」
「うるせぇよマトリだよいまそれどころじゃ」
「肩の力を抜けっつってんだよ。お前には田中ん家付近のホームセンターやらの防犯カメラ映像の開示請求権はあんのか」
「警察の方が店側は応じてくれるだろうな。だがそんな露骨な」
「多分頭まわってねぇよこんなヤツ、お前と一緒で。走れ」

 そう言って江崎が去ろうとするのに「待て」と誠一は声を掛けた。

「…賭けだぞ、それ」
「あ?」
「…合法で行くか?」
「お前今更地位とか」
「違う。
 …務所入ったことないんだろ」
「バカじゃねえの?マトリ辞めちまえド近眼」

 そう言う江崎に「勘弁しろよ…」と魂が抜けた声。
 …だが、そう言われればやるしかないなと、誠一はまずジャケットを羽織った。

 多分限界なのはそれぞれだ。慧にはハンデがある、誤使用までされたら死ぬかもしれない。

 声の枯れもあった、あの聞き取りにくいノイズでは判断も出来なかった…など、言っても仕方がないことよりも虱潰しに行くしかない。

 …頼む、待っていてくれ。助けに行く。
 …なんと言えば良いか。

 …江崎は言わせてくれないかもしれないな。あの様子だ、完璧に命を掛けている。
 意外だった。ただの博打のつもりなんじゃないかと思っていたのに。

 病院も考えなければ、そう、今は慧が生きているのを前提としなければ。事件発生から考えるとあと24時間しか自由がない。

 また電話が鳴った。今度は半井だ。

「…もしもし」
『マトリさん、』

 …泣きそうだな。

『い、いま……。シルバさん、スタジオ入りました、』
「…何」
『新宿のスタジオアルファです、』
「ちょっと待て、」

 走った。
 江崎に追い付き「江崎、」と、電話も忘れそうになりつつ、呼んだ。

「新宿のスタジオアルファだ、今、田中が入ったらし」
「…そいつに伝えろ、絶対突撃すんなと。やりそうだよな!」

 確かに。
 「聞こえたか」と聞けば『でも…』と、あぁもう、

「いーから言うことを聞け。お前は一般人だ」

 江崎はケータイを弄りながら「場所はわかった、平良走れ、そこは俺の物じゃない」と言った。

「俺は相手に許可を取る」
「…わかった」
「頼んだぞ、こっちはこっちで物を用意する」
「…物? 」

 江崎は走って行ってしまった。
 電話越しで泣いている半井に「しっかりしろ、立て、」と声を掛ける。

「助かった。兎に角急ぐから」

 まずは、走る。

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