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「先に言っとくぞ平良」

 何を言っているかわからない、死にそうな慧の声が漏れ聞こえていた。
 江崎はふと、銃を上げる。

「医者は手配してある。お前ここで待ってろ」

 パンクロックの合間に…こんなにも声が悲しく響いているなんて。

「…は?」

 誠一も誠一で銃を構えているというのになんなのかと思えば「こういう現場に坊っちゃんは来ない方がいい」と江崎は言う。

『江崎さん』

 ふと聞こえた慧の声に、動揺したのはどちらかと言えば江崎の方だった。

「…俺もそれなりに見てきてるっつーの、」
「違う、そうじゃない」
「は?」
「……思ったより過酷だぞ、平良」
「あんたに心配されなくても」
「バカ言うんじゃねぇよ、俺の現場だって意味がわかんねえのか。
 多摩、後からこい」
「会長それは…、」
「大丈夫だこれくらいなら、俺の頭は。
 平良、その間てめぇは俺の車から缶持ってこい」
「…は?」
「ここはあってもなくても良いらしい場所だからなぁ」
「…おいおい勘弁しろよそう言われちゃ」
「早くしろ、慧と引き替えだ。まだ大丈夫。
 裏の病院っつーのはな、薬物に慣れてる。この調子なら3日で抜けて一週間で退院だろ。
 開けっぱなしで行くからな、口塞いでろ、お前は頭に血が登りやすい。わかったな?ついでにタバコでも吸ってこい」
「……」
「文句はそれから言ってやれ、手柄もやるから安心しろ。あと白手だ。持ってんだろ、寄越せ。多摩と俺3つずつな」

 江崎は重い扉の鍵穴にバンッと一発、弾を打ち込んだ。
 それにはっとし「畜生、」と、誠一は多摩に銃を渡して階段を登って行った。

 一瞬にして、狂ったように流れ続けるロック以外の音がなくなり、江崎はドアを蹴破った。

 そこはテレビとベッドだけの場所。まるでAVの撮影所だ、実際そうだったと持ち主に聞いてきた。

 慧を犯していた田中はこちらを見るが最早もう、匂いでわかる、ニトライトは相当充満していた。
 多分こいつもかなり限界なはずだ。

 何も言わずに慧を離した田中はぼんやりと、「っはは!」と上の空で笑い、ゆったりとベッドから降り下着もパンツも穿いた。

「誰だぁ?お前」
「言ってもわかんねぇだろ、ジャン、」

 流石に充満しすぎていて、腕で鼻を覆った。

 酷い有り様だ。まず、想定して一発しか弾は入れていなかったが、本当に撃てないな。
 誠一にわかったとしても、爆発して終わってしまったかもしれない。

 田中はゆるりと首を傾げ「あーいい男だね」と言い寄ってくる。

「掘られたいくらい」
「…よく、喋れるな、お前」

 かなりの粗悪品だ。

 だが素人だな、こんな状況でよく電化製品を置いた、その程度のポンコツか。
 そして地下。ガスは大抵空気より重い。早くしないと…というか。

 可哀想に。いっそ理性がすっ飛ぶくらいのもんを作って死んじまった方が楽だったな、こりゃ。
 それでも、生きているんだから。

「慧、生きてっか」

 ダルそうに顔を向けた慧はぼーっと自分を眺める。多分理解が追い付かないだろうと思ったがすぐ「えざきさん、」と言った。

 …ベッドが血塗れだ、何故だ。

 しかし慧が穏やかな顔で目を瞑ったのに「クッソ、」と階段を見れば誠一はいないが多摩はいる。
 早く助け出さなければと思ったが、慧が目を瞑ったのは幸いかもしれない。

 足も覚束ないジャンキーに負けるヤクザはいねぇんだよと、カッターを出されても何も怯まなかった。

「会…、」
「撃つな多摩、」

 一瞬、慧がピクッとしたのが見えた。

「っはは!あのねぇ、もうあいつ大変だよ?犬とヤッても、猫とヤッても、」

 慧の心臓が心配だ。

「鶏とヤっても多分、わかんないよ、」
「…ホンット、よく喋んな、」

 最早刺されに行ったも同然かもしれない。

 くいっと首を傾げる田中が申し訳程度に持ち出したカッター、が、相手はこちらを刺せるほど焦点は合っていない。

 単純に片手で掴み、後はただ肘打ちだかぶっ飛ばしたかだった。

 流石ニトライト、頭に血は登るもんだな。

 あっさり壁にガンとぶつかったジャンキーに構ってもいられずベッドに駆け寄り「慧っ!」と呼んだ。

 慧はベタベタに血や精子やローションと、思っていたよりはましだが、汚れていた。

 風呂場だな、と冷静に考えたがまぁ自分の手も大分血に……あれ、めっちゃ血ぃ出てんな。忘れてたなニトライト、少し切れたくらいだと思うが。

 まぁいいやと、江崎は側の風呂場に慧を連れ込む。
 シャワーから水が出て「つめっ…」と、慧がビックリして起きた。

 心臓に悪かったな、ごめん。

 しかしよかった、意識は思った以上にある。まぁそうか、自分もいまあるし、流石素人。
 とは言っても、慧はこれに二日も漬け込まれていたわけだ。

 さっとだけ流し、タオルはたくさんあるなと身体を拭けば「んん…っ、」と慧が喘ぐ。

 痛そうだけど確かにな、催淫剤だし、と、自分もどうかしそうではあったが「ほれ起きろバカ」と、冷静に声を掛けた。

「慧、大丈夫か」
「…江崎さん、」
「そうだ、江崎さんだ」
「…そっかぁ…、江崎さんだ…」

 手を伸ばしキスをねだるエロさ。ドーパミンに直、堪んねぇけど気の毒だ。

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