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「キスは好き?」
「…わかんない」
「あっそ」

 離れた江崎は「碌でもねぇよ」と言った。

「女なら楽なんだよ、こんな話は寝ちまえばいい、いちころだ」
「…確かにセックスって楽…でも痛いと嫌…」
「そうだな。なんで痛いと」
「力入るし」
「なるほど。目を瞑りなさい」
「え、何」
「いいから一回瞑りなさい」

 言われてぐっと目を閉じると、ふわっと、口先が触れたのがわかった。
 ふっと力が入り目を開けてしまった。

 しかし相手は…とても穏やかに目を瞑っている。
 右目にほんの小さな黒子を発見した。

「…黒子」
「…ん?」

 江崎が疑問そうに目を開けた。

 怖いと思っていた人だったが、よく見れば切れ長だけど、少しタレ目だ…。

「黒子、ここ、」

 慧は江崎に教えようとしたのだが、どうやら江崎は目潰しをされると思ったらしい、きゅっと目を閉じたので「あ、ごめんなさい」と謝った。

「…そーゆーのが気遣いって言うんだよこのバカ、」

 デコピンされた。痛い。

「…痛い」
「…はは、」

 江崎は腹を抱え「なんだその唖然とした顔は!」と笑った。

「はーあ、子供か全く。いくつだお前」
「…23になった…」
「マジか、未成年だったりして、でもんなわけねぇと思いきや」
「…よく言われます」
「はは、あっそ。可愛いなお前」
「よく言われます」
「否定しろ、てめぇ」
「すみませんでも」
「はいはい。じゃーもっかい目を瞑ってもいいぞ」

 何その選択肢…。

 慧がぽけっとしていると、江崎は「早く瞑ってもいいんだぜ!?」と急かしてくる。
 なんだろうそれ…と、ゆったりと目を瞑ると、暖かい唇がふわっと触れ、そして舌がぬるっと入ってきた。

 初めて知った。この行為に、“優しさ”が滲むというのを。
 つい、夢中になるような。

 夢中になってしまい息の仕方がわからない。
 息をしようともう少しだけ口と目を開けると、目を開けていた江崎はまるで見計らったかのように、後頭部にふわっと触れより舌を絡めてきた。

 食べられちゃうかも…!

 そんなわけはないが、彼の目は彷彿とさせるキラキラした物で、勢いがあった。
 身を任せていると倒れそうになるけど…江崎は背に手を添え、口を離した。

 はぁはぁ、と息を吸うと江崎は笑い「なかなか下手だな」と言った。

「…言われたことない、」
「しないからだろ」
「…んまぁ…、」
「それより先にヤッちまうわけ?」
「だって相手はそれ目的だもん…」
「まぁな。キスだってそうだぞ?5割くらいは」
「じゃあしますか?」
「…あ?」
「そーゆーことじゃなくて?」
「……お前がやったこと、なんつーか知ってる?」
「セッ」
「売春だよ、売春。
 形がどうであれブツが欲しくて寝たんでしょ?よく知りもしないよくわからないヤツと」
「………ここに来て道徳?」
「まぁ確かに」
「……じゃあ聞きますけど、セックスの先ってなんですか?
 愛や快楽が対価でも、売春じゃないんですか?」
「……なるほど?フロイト好きなんだっけ?」
「…いや、別に」

 ふう、と息を吸った江崎は「タバコ吸って良いか?」と聞いてくる。
 なんだこの人、大人ぶってる、と思いながら「どうぞ」と慧は答えた。

「…確かにそうかもな。お前ってさ、好きなヤツとしたことある?」
「ん〜…どうだろうな。相手がそうかもわからないし…」
「それは気遣いに聞こえるけどね」

 タバコに火を点け「相互関係で好きじゃないとなると、ビジネスだよね」と江崎は言った。

「…片想いの方が辛そうだけどなぁ」
「片想いしたことあるんだ?」
「…わからない。恋…ましてや愛とかって」
「ホントに子供みたいだな。独り身の俺が言うのもどうかしてるが。どうだった、丹後は」
「別に。死んだ人の話はしない方がいいと思います」
「確かに」

 …否定はされないらしい。何に関しても。

「ただ、別に嫌いじゃないってことね、お前は」
「はい」
「…好きなヤツがいないとなれば、嫌いなヤツは?」
「…江崎さんって暇なんですか?」
「暇だねぇ、今は。誰かさんが嵐前のなんちゃらを作ってくれた。
 ところで腹減ってる?何か作るけど」
「えっ」
「俺料理好きなんだよ。まぁ、総代の飯番だったからな」

 別に好きなものもないけれど…と悩めば「慧」と、江崎が急に名前を呼んできて、つい驚いた。

「…はいっ」
「え、何その反応」
「…名前を呼ばれたので」
「そうか」

 江崎はタバコを揉み消し「飯食って風呂入ったらセックスすっか」と言ってきた。

「…はい」
「さて、生きる摂理とは、なんだろうな」

 それについてぐるぐる考えてしまった。

 痛いのは嫌と言ったのだけど、風呂の時点で少し染みた。だからかはわからないが江崎は別に入れてこなかったというか…。
 脱ぐ前、触った時点で感じた。デカい。そのせいで萎縮してしまったのはあったのかもしれないが、江崎は様子を見ながら指だけだったのだ。

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