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仕事とはそういうものだ、楽しく出来なければ向いていない、それが一流なんだろうとも思う。
それでも…と考えた先に「おっとと」と持ちにくそうに三味線を構えた要がいる。
今はそれが、微笑ましい。
譜を開き、舞の曲や歌舞伎の曲、浄瑠璃の曲などを練習した。
少し休憩した際、要は「にーさんが、つもバチじゃなく、弾いている曲、なん、曲なんですか?」と聞いてきた。
…どれだろうなと思考を逃がそうとしたが、やっぱりちゃんと要の手を取り「わ か ら な い」と書けば、彼は声を出して復唱する。
「ほうなん、すか!?」
頷くと「そうなんだ…」と、彼は三味線の胴を眺めた。
「あれ、弾いてみたぃなって…まだ、自分はヘタ、ですけどね」
あれ、あんまり役に立たないんだけどな。
あては笑うに留めようとしたが、ふと思い立ち、「は は の 曲」と手に書いた。
「おかーさん?」
「は な 歌 で す」
母はよく、どこかを眺めてあれをふんふんふんとしていた。
「おかー様は、何かの、人?だったのですか?」
少しだけ俯いた要はまるで意を決したように聞いてくる。あては頭を振り答える。
多分、あてのこの歪な喉のことやらと、今の瞬間にこの子は考えたのだと思う。
店に売られてきた子供は大抵、両親の話をしない。
少し考えたが、あてはもう一度要の手を取り「母は優しい人でしたよ」と、言わなくても良いかもしれないことまで答えた。
案の定要は目をぱちくりとさせ、自分の小さな手を眺めた。
あての知らない、あての噂や憶測は聞いていたりするだろう。事実あては要が初めての弟分だ。皆あまり、あてには近寄らないのだ。
今でも思う、あてがこうして丁稚の、しかも茶屋で働いていることを母がどう思っているのか。恨んでいるのか憐れんでいるのかと。
少し、変な顔をしてしまったのかもしれない。
要は取り繕うように「いつか、じょーずんなったら、弾いて良いですか?」と聞いてきた。
あてが頷くと要は「がんばらんと」と素直に可愛らしいく笑う。
でも今日はと、「休もう」という意味でただ三味線を構えたまま微笑んでいると、要は察し、「疲れましたね、お茶を淹れてきます」と、三味線を置き部屋から出て行った。
要の親は一に、「お願いします、お願いします、」とだけ言って要を置いていった。
何をお願いなのか。
簡単だ、「育てられないので面倒を見てください」というものだ。
要の父母はここを「新しいお家よ」と言って去って行った。
一はその時、要の両親と仕送りの話を進めていた。
その先にあてがたまたまいて、要は突然あてに突進してくるように抱きつき、あての着物で涙を拭いていた。
そして要が両親に振り向き「家族、見っけた」と言った姿を、未だに鮮明に覚えている。
要は子供にしては聡い。特に、誰かの気持ちに。
始めはそれがどうにも慣れずに困惑したが、どうやらあれから三年、こうしている。
あてや一を置いていった人とは随分違うが、勝手ながら要の両親の方が残酷なのではないかと考えてしまう。
優しい人が良い人だとは、全く思わない。まぁ、優しい人はここに子供を置いていき食い物にはしないのだけれども。
あてや一を置いていった人はもう少し冷たい人だった。
あてならまだしも、可愛がっていたはずの一まで、ただ何も言わずにここへ連れて来たのだから。
いつか要も郭というものを知ることになるだろう。
だからこそ冷たい態度の方がいいのではないか。いや、今は愛情を込めた方が、なのかと、あては時々要に対し、気持ちが揺らぐことがある。
勿論、要自身はあての仕事も…皆の仕事も恐らくわかっている。
愛想もあるし接客にも向いているだろう、あてが言わないことをこうして自然と悟るのだし。
要の茶を飲んだらあても二階廻しの準備でもしよう。線香と油と…等と考え、母の歌が頭に浮かびそうなほど気が遠くなり始めても、要は帰ってこなかった。
湯でも被って怪我でもしてしまったのだろうか、あの子は歯を一気に抜いてしまうような…そんな面があるしなと、台所へ向かおうとした時、窓の外に先日接客した武家の男が見え、母の唄が消えた。
そんな頃に「す、すません、」とやっと帰ってきた要は、露骨に俯き茶を持ってきたのだった。
幸いにも怪我はないが明らかに、明るくない表情で俯いている、これは「お茶を溢してしまう」という注意ではない、寧ろそんなことは心ここに非ずだ。
座って茶を起き「どぞ…」と手を出した要の手を包み目で訴え掛けた。何かあったの?と。
要は確かにあての顔を眺め、一瞬間を置いたが笑い「すません、冷めちゃって」と言った。
こんなとき声が出ないのはもどかしい。あてはその手をもう少し強めに握り促した。
要は俯き、「やっぱ、敵いません、にーさんには…」と、それだけしか言わなかった。
この表情、知っている。要が親に捨てられた時の…あの振り向いた時のものと一緒だ。
要、どうしたの?話して。
でも、伝わらなかった。
要はその冷めた茶を一気に飲み干し「にーさんも、準備、が、」と、…さっきとは違う、まるで舌が痺れたような喋り方にはっとしてあても湯飲みを手にした。
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