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完全に顔を引っ込め…やっと、呼吸を思い出したかのように吹き返した、この、顔を覆う手の震えや冷えた汗が…ずっと背を冷やし寒々している。
見世にいるみ空はとても穏やかな笑顔で、私は膝枕までされた。だがさっきのあれは…私まで睨んでいたのではないか、いや、きっとそうだ。
恐らく見てはならないものを見てしまったのだが不思議だ…彼の、そんな…若々しい気の強い様を見ようなどと…。
手汗で冷えたその手で自分の熱い逸物に触れた。ここは、死角も死角だ。
楼の壁に吐精してやれば非常に晴れやかだが…やはり濁りは少し残る。あの目だ。
褥を共にした始めに感じた、彼の瞳は澄んでいて…まるで人を見透かすようだなと思ったのを。
私の境遇や私が三郎に対し抱く妙に侮った気持ち…勿論会話などないのだが、それら全てを彼は受け入れるように私をあの熱さへ誘ってきた。
…可哀想だな青年。あの目に嘘は吐けないだろう。
どうやら彼は君が思うほど安くもないし、あの手拭い下男が思うほど柔でもないのだ。
始めに…はづき太夫といったか。あれに「冷やかしだ」と言われたのすら思い出される。なるほど彼らは難しい。
遊女の事情など大抵は金だ。私はやはり、三郎の自慢話が頭に浮かんだ。
しかし、帰れば帰るで一人夜、あの目が忘れられなくなったらしい。み空はその夜から、私を睨むような瞬間とあの甘い笑顔で眠りに誘うようになった。
まるで私は見ろと言われた、いや、見るなと言われたのか、ぐちゃぐちゃに絡み合ってわからない。それは単ではなく、混紡のような肌触り。
それが私には堪らなかったようだ。
次の日にはもう一切分の金を瓦版屋の爺から前借りし、み空の元へ赴いていた。
あの若い楼主は受け取らなかった。だが、その日はみ空の見世へ入ることが出来た。
彼はまるで何事もなかったかのように単を羽織り、柔らかい笑顔で手を付いて頭を下げた。
それが非常に妙な感覚で、ついつい間が持たず私はみ空に「具合は、どうだい?」とぎこちなく聞いていた。
彼は少し眉を寄せ笑い、手を合わせ謝る動作をした。
「心配したんだ。良くなったようで…」
試しに、先程行き場をなくした一切分を渡そうかと袖口から銭入れを出すと、彼は緩やかに首を横に振り、そしてふっと掌を見せてくる。
私がそこに自分の掌を乗せればみ空は「今 日 は 終 わ り」とだけ書き、私の手を引き自分を組み敷かせた。
互いに見つめ合い、私がどうしようかと考える間もなく、み空はふわっと両手で私の後頭部に手をやり、口を付け、舌を絡めてきた。
どうしようかというものが一気に吹き飛んでしまったが、やはり、昨日青年が触れたのであろう乳首やら肩やら…その辺にばかり手をやってしまう自分がいる。
ぐいっと、筋固い物が私の逸物をすり…すり…と柔らかくゆるやかに撫でてくる。み空の、露になった右足だった。
彼はまるで子供のようににやっと笑い、悪戯のように紐を解いてくる。
その時点で確かに起立しかけていたが、果たして、み空の体温はこんなに高かっただろうかと少しだけ思った。
和紙はなく、ただ彼はどうやら行灯の油で私の核を濡らす。
下を指差した意味を理解し、み空の中でまずは首をくっと括っただけでやはり、明らかに前回よりもみ空の身体が熱いと感じた。
両足を広げるように立て、顔を背けながらぐっと耐えるように敷き布団を掴む彼の鮮やかな官能さに、ついつい動けない。
前回はあまりに良くて途中を覚えていない程の頭だ。
私は今この瞬間を目に焼き付けたくなったが、止まった瞬間み空はこちらを見、潤んだ瞳で首を傾げた、その露になった首筋に舌を這わせ、吸っていた。
三味線の一番細い糸が切れたような単純なものだと、自分でも思う。
ぐいぐいと中にも…まるで吸い寄せられ、微かな彼の…熱い息遣いを耳元で聞いた。少し、空気がひゅうと抜けるような音がする。
その日のことははっきりと覚えている。
息を使いきり果て、呼吸を整えていた私の背に、彼はしなやかな指使いで「は な し を き い て く れ ま す か」と言ったのだ。
「…ん?話?」
火照った頬でふっと切なそうに横を向いた彼は、敷き布団の下に手を入れ、文のような物を渡してきた。
私がその場でそれを見ようとすれば、み空は瞬時に首を振り、初めてだった。口を「あ と で」と動かしたのだった。
「………」
一体なんだろう。
み空は私の疑問を読み取ったのかもしれない、控えめに笑うに留めていた。
一切はそうして過ぎ、迎えが来て部屋を去るとき、彼は前と違い、着物を直すこともなくぼんやりと布団の中にいた。
…昨日のはもしや風邪で、こんなことではまた体調を崩すのではないか。
そう心配したのだが、私が部屋を出て階段を降りようかという時だった。
通い慣れた店では確かにないのだが、見慣れないような…薄っぺらい着物を気崩した、明らかに接客ではないだろう、私と歳も変わらない程の男とすれ違った。
彼と目が合ったのは確かで、そしてふと、その男が私を見て笑ったような気がした。
無意識に気になったのかもしれない。私が彼を目で追えば彼が奥の見世に向かうのが見えた。
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