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「僕らは君らの夢を叶えたいが、君たちがやることは…それに近いという覚悟をもって欲しい。こんなこと、未成年に言いたくないけど。
 それをどう好きになっていくかはまず、今は勿論、少し先も眺めて、よく考えて挑めば良いんじゃないかなって。
 僕が昔、人に言われた言葉だけどね。ずっと狭い青春時代だったけど、世の中の見方は変わったかな。
 俺、君みたいに駄々っ子だったから」

 眞田さんがふっ、と「良いこと言うな〜、成長して私ちょっと嬉しいや」と笑った。

「じゃ、平中くん。まずはその二本も頑張ろう。今日はこれで終わりにしましょ」
「送迎で良いですか?
 だとしたら…間に合うな、野島さんの送迎も変わりたいです、何がいいかなぁ、勇気くん」
「…じゃ付き合う」

 平中くんがぽつりと言った。

「アキバにあるガチャガチャ屋に確か、このキャラのシリーズ出てる、限定の。わかんないけどバイオリンの人、アキバなんて行かなそうじゃん」
「…かも」

 そうして解散し、俺は彼を秋葉原あきはばらに連れて行った。

「大人の事情に巻き込んでごめんね、敢えて言うけど」

 これくらいの歳、ましてや15歳からこの業界にいるならば俺よりもずっと長く、死ぬまで青春を送り続ける子だ。そんな子にこの言葉は多分、嫌だと思うけれども。

「…別に、あんたのせいじゃないでしょ」
「でも、まぁ少し思って。言っちゃってごめん」
「……」
「まぁ、お堅いことを言いましたが、方向性は君が考えて良い。中には沢山いますから、変わり者を演じすぎちゃって実は病んでいくとかさ。向いてないならやらない方がいいし」

 ミラー越しで複雑な顔をした彼と目が合う。
 灰色のキラキラした目。こんな輝きを一番近くで見守ることになるのか、なんて少し思った。

「でも意外と、なるほどなってさっき思ったから大丈夫。あんたは芸能人じゃないからさ、少し新鮮だった」

 それは嫌味なのか褒めているのか…。

「煽ててるのか洗脳なのかわからない、このまま流されたら、って確かに駄々捏ねてたのはある」

 あ、やっぱ嫌味でしたか…。

「でも、それをズバッて言われると、なんっつーか、ムカつくようでスッキリするなってちょっと思ったかも」
「…確かに」
「それは怖かったのかもしれないって、言われて思った、気付けたかも」

 …俺も少し、そうだったよ。

「…気付けて、よかったの?」

 俺はあの時、それと同時に「あぁ、そう」と思ったそれが諦めだったか希望だったか…紙一重な気がするな。

「…どうだろう」
「君、あんまり意見言えない人?」
「いや、言う気がなかった」
「まぁじゃあズバッと言うと、野島さんみたいな人とかはね」
「わかってる。知名度、地位、そんなものがないと我が儘効かないだろうなってのは」
「随分達観はしてるよね、君」
「俯瞰した態度が気に入らねぇって?」
「いや、自分が君と同い年くらいの頃を思い出した。そう言われたこと、あるの?」
「まぁね」

 随分幸せじゃないか、だなんて。
 俺なんてそうも言われずただただ「可哀想に可哀想に」が拭われなかった気がしているのに。

 そう思ってしまう自分が少し…小さいと感じる。

「…言って貰えるだけいいかもしれないよ?じゃあ、最早回りを気にせず一回やっちゃっても良い気がする、若いんだし」
「はは…確かに、そう言われたのは初めてだな。あんただって若いじゃん」

 …本当はこんなの、マネージャーが言うことじゃない。押し付けている気になって嘘臭い。彼には、彼の未来があるんだから。

「…会議じゃ出ないかもしれないこんな戦略はどうかな?『僕は声優希望なんで、学校も行ってて〜』って番組で言いふらしちゃうとかね。
 あーでも、逆手に取って俳優オンリーにならなくもないな。ある程度いけば断ってもいいだろうけど。そう言えばどうして声優なの?アニメ好きなのは聞いたけどさ」
「俺に興味持ってくれたんだね」

 彼は爽やかに笑い「ところで本当にそっちの人?」と話を反らしてくる。
 あまり聞かれたくないのかな。

「…そっちって?」
「ハッキリ言っちゃって良いの?」
「どうぞ」

 そう言うと彼は少しいじけたような顔で「やっぱいい」と言う。
 本当に不思議な子。でも、言わないなら言ってあげないよと「あぁそう」と流した。

「俺昔、学校行ってなくて、アニメしか見てなかったから」

 …意外だ。
 どうして今のノリで心を開いたんだろうか。黙って聞いてみようと思った。

「ふと学校に戻って現実を見ればより、アニメの良さがわかった。だから、あんたが言った“売春”ってのも、俺、頭に来たと思ったでしょ?実は案外しっくり来たんだよ」
「…じゃあ、大人に乗っかってみようって考えはどう?若いんだし」
「また言った」
「…君は強いと思う。飲み込みがよくて怖いくらいだね」

 はは、と笑うと、ミラー越しの目は何かを見透かすよう。だけど態度はつまらなそうに「で?あんたは?」とちぐはぐなまま。

「俺は話したんだけど。あんたの事は聞かせてくれないの?」
「純粋だなぁ。大人はそんな手には乗りませんよ。
 一個だけ言うなら、君、女の人とだけ目、合わせないでしょ。
 君の事をウチの人はね、テレビ越しでもすぐにゲイだって見抜いたけど。大人をあまり苛めないでよ」

 こうして大人がいじけてみたら彼はどうなるだろう、キレるのかな、それともいじけ返すのかなと思って眺めると彼はピクッとして、「…あぁ、悪かった、ごめん」と謝ってくる。

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