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それはある意味、相手やファンの期待をわかっているということなんだけれども。
「…しかし、ワンクールでドラマ出てましたよね。次から始まるやつなら撮影って…」
「途中かな〜…」
気まずそうに言う眞田さんに「…別に出たくないし」と平中くんはどこまでも駄々を捏ねる。
「しかも、サブ役なんで居ても居なくてもだし、出番の山場なんて後半バッと出て最終話には消えてるっしょ」
「えっと…15歳のころ|渋谷《しぶや》駅でスカウトって書いてあったっけ。やっていくうちに声優とか」
「元々人前出るの嫌いだし」
「そっか…。ちなみに予定はどうなってるんですか」
「ドラマ撮影と番宣で朝番組にあと数本かな、確定してるのは」
眞田さんから予定帳を見せて貰う。
まず、(仮)というのがあった。
恐らく、スターライトが入れたいと要求している枠なんだろう、ゴールデンタイムのトークバラエティがちらほら見えた。
朝、夜はご家庭で忙しい野島さん。野島さんはコンサートとその番宣以外は家庭優先で、テレビに関しては殆ど不規則な仕事を入れない。
大体は午後撮影で、週一本だけあるレギュラー番組以外はないから、一定だ。
午前か夜かをこの子に裂く、として…。
この子も察しているだろう、大人の変なところを。
この事務所はいかにも「女性」感があり、テレビに出ているタレント、事務所の名を見れば「はいはい、女性ね、優しくしなきゃね、はいはい」という印象を持たれていると現場で感じる。
それ故に近頃、たまにこうして男性タレントをちらほら見せたがるが、それは結局この事務所のスポンサーへの印象問題でしかない。
スターライトとしては、子会社から意外な子が!と、ここで一回ウチの事務所も平中くんも爆上げしたいのだろうが…その辺がテレビ業界の認識違いだと思う。
ぶっちゃけ視聴者なんて、事務所などあまり気にしない。それどころか大手過ぎる大手でなければ、タレントの所属事務所なんて知らないだろうと思う。
…この子を思惑通りに爆上げするならば、トークバラエティでちらっとでも「女性が多い会社だよね」と司会者か何かに振って貰い、この子に喋らせるしかない。
しかし当の本人が望んでいない雰囲気。そもそもそんなわざとらしく面白くもない件なんて、誰がやるのか。
看板を背負ったとしても、スターライトからすればただの「新人」なのだ。
そのへんで衝突したのかもしれないな、芸歴4年という、中途半端に慣れ始めた頃だし。
眞田さんの言う通り、確かにここはある意味向いているのかもしれない。
野島さんといい、ここは意外とやりたいことに寛容な面はあるし、この子の場合は学校にも行きやすそうだけど…。
俺は試しに「この(仮)はなんですか?」と詰めてみた。
「スターライト側がね、まぁ、ゴールデン枠のトークバラエティに出したいみたいだけど」
「なるほどです。平中くんに“やりたいかどうか”の確認用スケジュールですかね?」
「そうそう」
「どうしますか平中くん。大物司会者ですが、なかなか取ってこれない案件ですね。前のマネージャーさん、結構なやり手だなぁ。ここに出とけば印象は変わりますよ。
まぁ、撮影時間が伸びるわりにあまり使われなかったりしますが…出た、というだけでも仕事の入り方が変わります」
「…うーん」
「君、変わってますからね。話を振られまくる可能性は」
「それなんだけど…。印象の付き方とかあそこは変わるってのは聞いたことあるけど、何より名誉なんでしょ?まぁ大人の事情なら飲みますよ別に」
「あっそうですか、なら入れておきま」
あ、明後日収録だこれ。
ついつい途切れてしまったが「入れておきますね」と予定帳に入れた。
「あ、それとこっち…この月曜22時のやつ。収録…うん、野島さんの送迎ついでに行けそうですね。
凄いなぁ、上がりそうだなぁ。結構な番組揃いですね」
「そうねぇ」
「…じゃあ全部入れれば良いじゃないっすか」
「…消極的な物言いをしてますが、そうしたいなら、そうしますよ。ちなみに僕の他には」
「まだ付いてないかな。西賀くんがキツそうなら付けようと思ってたんだけど」
「…夜収録入ると主婦さんはキツいですよねー…」
「まぁそうだけどね…」
「…試しにこの二本、行ってみる?平中くん。
ただ、月曜のは、観たことあるでしょきっと。対面というか一人喋りだけど、僕的にはこの司会者、トークに関しては安心出来ますね。この人空気読んでくれるしそうだな…多分ここの番組、観客いるから終電前には間違いなく終わります」
「………」
「まぁ、それから先は様子を見て考えてみようか。
ただ、言っとくけどある程度…君の今の売れ方では、ちょっとその先が心配かな。名前は最近確かによく見るよね。でも、3年後はわからな」
「テレビで売れなくても別に」
「そうなんだけどね。でも、じゃあ、声優になるとしよう。営業掛けても相手が仕事をくれないと出来ないよ。それが“印象”なんだよ。
声優なら尚更、君くらい声が良い子は一杯いるし、昔より競争率も高いじゃない。顔出しまでしてる世の中なんだから」
「………」
「…これは最初に言うことだから忘れて貰っても良いよ。あのね、メディアやエンタメなんてどう足掻いても売春だから」
平中くんは俺の発言にぎょっとし焦ったように眞田さんを見る。
流石に言いすぎた気はするが、当の眞田さんは俺の出方をただ見ているようだった。
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