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「あれなの?丸出し状態で踏み込むの?」
「…いや、案外少ないというか」
…あれ、なんかこの子、物凄く普通なんだけど。あんな、薬の包装がどうたらと、如何にも男子高生っぽいテンションだったくせに。
まぁでもそういえば、交番でもそれに関しては淡々としていたな。
「せっかくだから」と言って彼はブランケットに手を…やっぱりそうだよな、この年頃なんてと、目を反らしてやろうかと思いきや、彼はポケットから例の薬を取り出したのだった。
「いや、ちょっと…」
「これ用、だぉね?」
また錠剤を出してがりっと噛むと、腹あたりが一度波打っている。
過剰摂取をしたことはないが、酒を飲みすぎたその症状と似ている。明らかに身体はそれを受け付けていないだろう。
隣ではお構いなしに喘ぎ声や会話が聞こえる。多分中盤くらいのヤツ…。
「……ハルシオン」
「…ん?」
一瞬忘れかけた。
「この薬の名前。可愛いよね」
ドアの袋にわざわざそれを捨てに行く。彼はやせ形なようだ。這いつくばった背のシルエットにそう感じる。
その際、少年のポケットからポロっと何かが落ちた。
カッターだった。どうも、見覚えも使い馴染みもあるもの。
「あぁ、これもついでだな」
カッターを拾い戻ってきた彼は自分の手首を見、「ちゅーざいさんさ、」と言う間も、隣の声が煩わしくてしょうがない。
彼はふぅ、と溜め息を吐き隣を眺め、包帯の巻かれた手首にカッターを充てた。
やはり、職場の新しいカッターだ。
それは止めなければと、俺は少年がカッターを持つ手首を反射神経で掴んでいた。
彼ははっと、薄い目で俺を見て「あ、現行犯された」と言う。
「…そうだな、返して欲しい」
「ごめん今だけ持ってたい、充てるだけ。切りたくなるんだ、こういうの」
「…ん?」
少年は巻かれた包帯を眺め、「これで一瞬躊躇っちゃったから、捕まっちゃったな」と寂しそうに言う。
「警察って偉いね」
本当に切る気はなさそうで、確かにカッターの持ち手ををぎゅっと握り…耐えているような。
「…絶対切らないよ、今は。
でもさちゅーざいさん、俺が切ったらまた消毒すんの?」
「…まぁな」
非行少年に闇が見える。よくあることだけど。
手を離せなくなったが、彼はあっさり、まるで手を繋ぐようにカッターを「はい」と返してきて…。
初めて笑顔を見せた。
膝を抱えた彼は包帯の上を握る、もうやらないよと言っているような。
それはお辞儀をするときと同じ原理だと思った。
仄かに笑ってこちらを見る少年は…多分これを美形というのだろうか、中性的、男女と言う平衡感覚がなくなりそうな。少し状況に慣れ、改めて気付く。
その向こうの喘ぎ声は加速する。
強く手を握り耐えているくせに、彼はそれを感じさせない穏やかな声色で「ちゅーざいさん、名前はなんて言うの?」と聞いてくる。
「…へ?」
予想もしていなかった言葉に「西賀芳明」と返していた。
「さいがさん。ヨシザワハルユキだよ」
…彼の壁の向こうのそれとは、違うのに。
少年、ヨシザワハルユキがぼんやりと下を見たことで俺は自分の身体の変化に気が付いた。
少年は容赦なく「勃ってる」と指摘してくる。
「…あ、悪い…」
「はは、若いねさいがさん」
…まさか15の少年に言われるとは。
「お隣さんそろそろだもんね。
どうする?」
「…は?」
「抜いてあげよっか?」
…何故そうなる。
というか、そう言う自分はどうなんだ。
「いや、意味がわからない」
「しごい」
「わかってるけど、そうじゃなくて。
…テキトーに大丈夫だから。てゆうか君はどうなんだよ、俺より遥かに若いだろ」
「見る?」
パッと足を伸ばしてブランケットを捲った彼は、全くもってという状態だった。
…いやまぁ確かにこんな状況でというのがどちらかと言えば異常なのだが「多分上手いけど」と淡と呟く彼を凝視してしまう。
「いや、未成年だし、君」
「あ、そうだね」
「…てゆうか、」
そうだ、さっき、切りたくなるだのなんだのと言っていたな。
彼はふいっと、「あっち見てるからいいよ」と、ティッシュを寄越して身を翻す。
とてもつまらなそうだった。
「…いや、」
「恥ずかしいことでもないでしょって授業で多分言われたよ」
「そうなんだけど」
…不思議だな。
「君、こういうの好きじゃないんだな」
「嫌いじゃないよ、そりゃ」
複雑だ。
どっちが大人なんだかという拗れた理性に負け、「…トイレ行ってくるからいい」と言っておいた。
俺を見てぱっと両手を上げたヨシザワハルユキは「あ、別に気にしなくていいよ」と返してくる。
「カッターも取り上げたでしょ?そんなことより窃盗犯が逃げたらどーするの?」
「…それを言ったら俺も今微妙に誘拐犯だし」
「そっか。じゃあ内緒にしてあげるから今日のはチャラね」
不思議と、ピンと来た。
この少年は今、「これ以上の詮索はするな」と俺に壁を作った気がする。
「…はは、でも、大丈夫そうか」
指摘通り、俺は普通に戻っていた。
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