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 ラーメンも食べ、結局仕事の話すらしないままマンションに着いた。

 裏口に車を停め、「じゃ、また」と言ったのだが、後部座席から出た彼は迷わず運転席のドアも開け、ただ手を伸ばしてきた。

 部屋に来てくれということだろう。確か8階だったか…。
 窓は嵌め殺しだろう。

 まぁいいかと車のエンジンを切って一緒にエレベーターに乗った。芳明は今頃働き始めたんだろうなと、ぼんやりスマホを眺める。

 それに彼は「旦那?」と聞いてくるので「別に。時間見ただけ」と答える。

「さっき誰かさんに言われたんで、スマホで」
「あっそ」

 8階に着いてすぐ、口数が少なくなっていたくせに「なんでそんなことしたの」と彼は、昔の彼のように、ゆったりとした口調で聞いてきた。

「…さあ?」
「理由なくやるわけじゃないでしょ」
「まぁね」

 部屋の前まで来てさぁ帰ろうかと思った瞬間、壁ドンというか壁バン。彼はドアに押し付けるように俺の退路を阻み、「聞かせてよ、理由」と影を落とした。
 通路の明るさと対照的な彼に、少しよくない記憶が過り身が竦み、ついポケットの中に手を入れた。

 今あるのは、刃物でも薬でもないんだ。

「…聞いてどうするの」
「別に」
「早く帰んなよ」
「この状況、部屋入れないんですけど」
「あっそ、」

 押し飛ばし帰ろうとしたがぐっと手を引っ張られ、勢いよく玄関に引き込まれた。
 平中レイアが俺に馬乗りになり、ピアスあたりを舐め「聞きたいからだよ」と囁く。

「何この状況。レイプされそうで怖いんですけど」
「あんたも気持ちよけりゃレイプじゃないんじゃないの?」
「君、さっきから酒だのなんだの、未成年でしょ。なんかあったとき困るのこっちなんだよね」
「18は越えてるし童貞捨てたのなんてもっと前だけどあんたはいつよ?」
「セクハラですけど、何より俺には相手がいる、指輪もあるでしょ、やめてくれないかな」
「へぇ、意外。裏切りとか言っちゃう系?でも、結婚じゃな」
「はい、」

 スマホ画面を見せた。
 咄嗟に録音して正解だ。画面を眺めた平中くんの思考は一時停止したようだった。

「…ウチの旦那、お堅い職に就いてんの、」

 ピッとスマホを切る。

「いまのだけで充分逮捕、名前も出るよ。大変だね、退いて」

 平中くんは理解するとふっ、と笑い「あんた抜けてんな、」と、そのまま俺の両手首を押さえつけた。

「切っちゃダメだろ、目の前で」
「…わざとですけど?」
「は?」

 …笑えるのはこっちだ。
 彼の股間を足ですりすりしてみる。

「アリバイは残しました。録音されてない部分は俺と君しかしらないよ」
「…わー、最低」
「この状況で言うの?」
「確かに」
「初めて?」
「は?」

 少し無言のまま彼は俺の顔と自分の股間を眺め、片手を離して頬に触れ寄ってくるけれども、俺は自由になったその手に力を入れて起き上がる。

 半藤で半身を上げた彼に「男と」と言えば、ふっと目を反らされた。

「なら退いてくんない?シャワー借りるから」

 ぽけっとしたままの彼に「旦那、夜勤だから」と伝えると、彼は何も言わずにそろりと退いた。

「我慢出来ないなら一回抜くけど。手が良い?口が良い?」
「…どーぞまずは風呂使って下さい」

 俺は多分、にっかにかな笑顔で「ありがと」と言い残したと思う。

 風呂で準備し流石に萎えたかなと思えば、「…じゃ俺も…」と、多分収録よりも大人しくなった彼の姿に「ふふ、」と笑える。

 レス気味だし、自棄と意地だった。
 たまにはいいだろ、意味もない行為だからこそ。

 世の中では多分、これを浮気と呼ぶのかもしれないが、彼が言う通り「結婚に近いだけ」なのだ。

 いつからどうしてそう変化したか。いつの間にかキスはしていたし寝てもいた。最初は確実に抱き枕から始まったけど。

 でも昔…と、平中くんが風呂から出てすぐフェラをしてやりながら考えた。

 これが愛情だなんて全く思えないんだよねと芳明に言ったとき、少し悲しそうな顔をされたのを思い出す。

「…やべぇ、」

 意外と初な反応の若い年下の下半身は長身だけある、可愛くないほど質量があった。結構解したが萎縮で狭まりそうなほど。

 でも、これがね…。
 喉が鳴りそう。
 彼を押し倒し今度は俺が馬乗りだ。

 …確かに、やべぇ。入れきるまでに労力を使った。中、全部当たるというか、最早どこかがちぎれそうだなと、動けなくなった。

「………」

 どうして良いかわからなそうな彼に「触ってて?」と俺の、ビビって萎えかけたそれに手をやれば、彼は少し火照った顔で「かなりエロい…」と胸を触ってくる。

「…熱い」

 腹を手で撫でる。皮膚越しに感じられそうな温度。
 若いなぁ。

「……ホンット、エロい」

 胸を触られていたその手を取り腹に持っていくと、腹も、…足も、腰も撫でてくる。

 可愛い年下。

 ふう、と覚悟を決めて動き始めたハズだった。
 気付けば動いているのは平中くんで、体位も変わっていた。

「痛くはなさそうだけどさ、」

 体重と体温が背に被さる。ふさっと髪を撫でる優しさとは裏腹に、ガツッと一回キたそれに「あぁぅ、」と声が出た。
 嬉しそうに「あぁ、それそれ、」と上気した声、容赦もなくなって、正常位にされそうになり「待って、」と、それだけは制した。

「ん?」

 そう言いながらもゆるゆる動く若い彼へ「…これが、いい」と言ってみた。

 もどかしいけど、頭の中にちらつくとどうしても萎えるのだ。

「これ?」

 たまたまぐりっと当たった場所に、声も出せずシーツを掴んだ。
 場所がわかったらしい彼にそこばかりを攻められ、先にオーガズムに達してしまった。

 しかし、右か左しかわからない彼は更にガツガツ攻め、待って、今の違くてマジでイッたばっかだから、というのも言えず「あぁっ…やだ、」とぜえぜえする勢いで口走ったのは多分、「助けて、」か何か、言葉になっていない振動だったかもしれない。

 気付けば完全に眠っていて、夜勤明け前に起こしてくれた。

 ぼんやりとした、賢者タイムというより希死念慮のまま帰宅し、何事もなかったかのようにベッドへ入って考える。彼は一体、どんな表情で俺を抱いたのかと。

 平中くんのSNSラジオを検索した。

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