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 その日から俺の昼食は菓子パンやコンビニ弁当ではなく、ユキの手作り弁当になった。

 彼は大体、昼間に帰ってくる。
 帰る前には交番に寄ってからスーパーに行き、俺が帰宅するとテーブルで勉強をしていた。

 ソファに関しては明らかに何かを察したようだ。
 受取日に帰宅すると既に組み立てられていて、まるで前からそこにあったかのように彼はそこを占拠し寝転んで自分のものにしていた。

 テレビを見たりゴロゴロしたり、料理本を読んだり自由に過ごしている。

 ベッドを一緒に使ったのは一ヶ月未満なのに、このベッドは果たしてこんなに広かったのだろうか、だなんて感じた。

 何も言わなくても「おやすみ」の後はそこが彼の寝床になった。本当はそっちの方が寝にくいのではないか?と相談する間もなく。

 こちらの勝手な事情を押し付けた自覚は重々あるけれど、何か目に見えない壁を一枚張られたような寂しさが、事実こうなれば湧いてくるものらしい。

『母親が俺を抱き枕にしていたから』

 そうも言っていたけれど…自分で買ったくせにそんなことが頭に過ったりしたが、数日すればそれほど気にも掛けなくなり、寂しさが少しずつ風に削られていくような気がした。
 だが、ソファーベッドとベッドの状態は結果として一週間も持たなかった。

 俺はあまり夢を見ない方だ。
 しかし、最近の大きな事件だったせいか、生々しくもあの一連の出来事が総まとめのように夢に出てきた。

 俺は夢の中で、きっかけとなった風呂場を覗いている。
 あの男が少年に性的な行為を強要していた。

「もっと行ける、もっと」

 少年は声も立てず涙目で…見上げてくる。

 さて、そろそろかと言う瞬間に鳴ったチャイム。
 煩わしいと取り繕い、面倒臭いとシャワーの音を立て……何度も何度もしつこいチャイムに、一度少年にしゃぶらせていたその顔をぐっと離せば『橋前交番の』だなんて白々しい。

「いま風呂入ってるんですよね!」

 はっと目が覚めた。

 リビングに人の気配がない。
 ウォークインの向こうからシャワーの音がし、痛さに気が付いた。

 …勃起している。

 しかしユキは存外早くリビングに戻ってきた気配がしたので、そのままリビングを背にして寝たふりをする。

 心臓が早かった。

 荒くなりそうな呼吸を押さえて気付いた、あの夢、中を覗いていたと言うより…。

 心臓も、呼吸すらもうるさいと感じる最中、背中側にあるソファーベッドが気になった。

 もぞもぞ、ごそごそと生地が擦れる音がする。
 それと妙な…水っぽい、くちゃくちゃとした音が聞こえ、確信した。彼は、いますぐ側で自慰行為をしている。

 頭で考えてしまえばくっと息を呑み込むしかない。…どうしてもあの変態男の存在が浮かんでくる。

 それも、妙に長い。
 自分なら多分ここまでは長くないけれど。

 僅かな、声にもならない息遣いのようなものの後、彼ははあはあと熱そうな息をしていた。

 ぎしっと立つ音、そして消臭剤を掛ける音がし、彼はふいっとまた風呂場に向かったようだった。

 リビングへ振り向いた。

 そのソファーベッドの雰囲気が妙に生々しく感じる。
 また漏れるシャワーの音に、俺は余した精力を発散した。

 やっぱり、言っても自慰なんて…まぁ多分我慢していたのもある。
 10…3分もあればと言うところだが、まだ帰ってきてないのも幸いにティッシュを捨て、そろっとトイレに起きて気付いた。

 …そう言えば、トイレでしないんだな。楽そうだけど。

 てゆうか、俺は何を考えてるんだよ。

 罪悪感やらなんやら、頭の悪い思想で手も洗い、何事もなかったかのようにまたベッドに寝転んでいる自分が無様というか不思議で仕方がない気分。

 冴えてきた。
 いま水を流したんだし、彼はシャワーを浴びているのだから、俺が起きたのはバレただろう。
 てゆうか長くないか、と心配した後に気配があり、髪を乾かす音がした。

 気に掛かりつつもう、寝てしまえ…と目を閉じたままにしたが、ユキがベッドの方へやってきて「起きてる?」と聞いてきた。
 心臓が止まりそう。

「…んー?」

 寝ぼけたふりをする。
 ふわっと、風呂上がりの良い匂いがした。

 目が合うと彼はベッドに乗ってくる。
 場所を空けてやれば、俺の側で丸まって目を閉じ、寝息を立て始めた。

 …その無垢さについ魅入り、髪を撫で「おやすみ」と、言ったのは聞こえたようで「ん」と返事をしたこれに、ソファーベッドなんて結局意味なかったりしてなと、少しだけ思った。

 起きる時間も安定してきて、俺にこっそりとキスをしてから「おはよう」と起こしてくるのをやり過ごすのも慣れてきた。
 きっと、このままではあまりよくないと、どこかで思いながら。

 多分、その頃にはとっくに気付いていて、その地を離れた頃にはベッドを大きくしたし、彼は自慰をしたあとに限らず、結局朝には俺の側で寝ているのだ。

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