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関係性に転機が訪れたのは、ある日の休日だった。
ユキは公立に受かり、東京で暮らし始めた頃、署長もいるしスケジュールは極力当直を希望していたが、それを掴むまでに時間は掛かった。
夜勤明けは平日ならユキが起きる時間なのだが、なかなか寝付けない日も多分あったのだ。
昼飯を用意してくれて、夕方に帰ってきて少し早めに就寝する。
俺としては夜勤の次は大体休みなので、就寝が早くなくても別にいいのだが、あの日は確か金曜の夜勤明けで、ユキの休日とも被ってしまったのだ。
ユキのソファーベッドは引っ越しの際一緒に持ってきたが、その日のユキは始めから俺のベッドに入ってきた。
何か話したいことでもあるのだろうか、そんな雰囲気を出していた日。
「…久しぶりだね」
俺の中ではなんとなく、これはよくない雰囲気だと感じていた。
のに…俺が返した「そうだね」は、思いの外声の温度が高く。
気付かないふりばかりしているのに自嘲しそうだった。
互いに流れる空気はきっと重いほど甘いはずなのに、何も言えずにぎこちなく、ユキの髪を撫でたのを思い出す。
そしたらどうにも、何か我慢をしていたのかもしれない、まるで塞き止められた物が溢れるように、じっくり顔に触れ、それにやり場もなくふっと、ユキを自分から抱き締めていた。
だけど言葉は見当たらない。勃起して気まずいままに「学校はどうだい?」だなんて聞いている自分の思考回路が不思議で仕方なかった。
「…うん、」
腕の中でくぐもって言うユキは、俺の足の間に自分の片足を挟み、「楽しいよ」と俺を見上げた。
少し、遠慮がちにその足をすりすりとする彼にどうにか言葉を見つけようと「…今何やってるの」と、大人の理性で聞く。
「…普通に国社数理英。国語はいま、リンゴの詩をやっていてね…社会は、なんだろ」
すりすりと刺激されていく。
流石になぁと眺めると、ユキは俺の股間を見ている。その伏し目が「あのさぁ」と一息吐く。
「…俺がこれを触ったら、それはOKになるの?」
「………」
頭が真っ白になったが、彼が顔を上げ、俺の起立したそれを寝巻き越しに手で下から撫で上げたのだった。
「いや、」と理性的に組み立てようとしているのに、それは続けられ「…芳明さん」と、何故か彼が困ったように言う。
「…嫌なのかな、やっぱり、気持ち悪い?」
「……そうじゃないよ」
「気付いてるでしょ、きっと…」
彼は手を離し、俺の上着に顔をすり付け「ごめんなさい、」と謝った。
それになんとも言えない気持ちになり、ただ背を擦り「…いいんだよ」と答える。
「けど、」
「いや、いいのごめんこんなことしている方がおかしいし嫌だしされたいわけでもないはずなのにただわからなくて、」
多分、それで傷付けたのかもしれないといまなら思う。俺は、自分の蓋を押さえつけるのに必死なくらいには、多分若かったのだ。
「例え君からそうされたとしても、俺がそうさせた、という風になるんだよ、ユキ」
パッと、綺麗な目で俺を見上げてくる。
俺はその純真な目に、選択を間違えたと悟った。
「………」
それから俯いたユキは「そうだね」と、物分かりよくそう言った。
「貴方は大人で、俺は子供だから…」
「…うん」
「ねぇ、」
ユキは顔を歪め、泣きそうになりながら「なんで助けたの」と一言言った。
その言葉に、心臓をナイフで刺されたような気がした。
「…なん、で」
確かにそうだ。
中途半端で、だけど正しいだなんて。
どうかしている。
「…君を…。
橋の上で、君を見たとき、君はどこかに行って…しまうんだと思った、」
「………」
「その手を掴んだことを、間違っていたとは思っていないし…いまでも、そうで、」
冷や汗だろうか。
ユキの髪に触れていた手が震えていることに、ユキも気付いたようだ。
その手を取って暖かい頬に当てたそこに、涙が一筋流れたのを、拭うことしかしてやれないけど。
「わからないんだ、まだ」
「………」
あぁ、そうか。でも、俺はもう、わかってしまっている側なんだ。
「…探して行こう、俺はずっと、側にいるから、まだ」
ユキ。
俺もあの男と変わらないんだよ。
この間に何が有るか無いかというのは、いま、意地になって言えないでいる、探している。どんな方法がいいのか、なんて。だからまだ、言わせないでくれだなんて…。
「じゃぁ、」
ふっと視界が塞がれたような気がした。
目の焦点が合えば長い睫が側にあって、目蓋が閉じられていて。
口に慣れていたはずだったのに、思ったよりも柔らかく…繊細だと気付いてしまった。
ふと腰を支えてやるとユキは触れるだけで口を離し、「…これはいいかな?」と聞いてきた。
「あんま、したことなくて…」
俯いているけれど、表情も間近に見える位置。
これはよくないことかもしれないと、「俺、芳明さんがね」と言うのを自ら塞いでしまった。
舌を入れ、吸い、彼が驚いているうちに離れ、「ダメ」と制する。
…綺麗事だ、こんなもの。
放心したユキは「…そっか、」と言い、俺に背を向けて寝転がった。
もう少しだけ言ってやればよかった、そう後悔したのは少し後だった。
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