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「お前、どうしたこれ、」

 理性的でもない芳明が両肩を掴んだので、俺はそのままストンとソファーベッドに座り、見せ付けるようにバラバラバラと散らばした玩具を眺める。

「…量販店行ったら声掛けられた」
「は!?」

 正直、不貞腐れていたのだ。

「それで事務所行って、ただで貰ってきた」

 オーソドックスに、穴が空いているやつや、マッサージ機、ボコボコ丸いのが付いたやつやらイヤリングみたいな奴やら、細い線?やらもある。

「撮影前に使っときなさいって言われた」
「撮影!?」
「あー、ビデオとかじゃないから大丈夫だよ」
「待て待てなんだ、頭が追い付いていかな」
「芳明さんは使わないの?これとか女子用って言ってたけど」

 楕円のやつと棒のやつが繋がった玩具を手に取って見せ、動作確認で電源を入れると両方、うぃぃぃんと音がして止める。

 芳明は完全にフリーズしてしまった。

 唖然としたままの芳明を前に「例えば、」と、貰ったコンドームを開けると、良い匂いがした。さくらんぼか何かな。

 ふっと息を掛け先を舌で潰し、棒の方に舐めるように装着して「これで合格したんだけど」と追い討ちを掛けてやる。

「芳明さんの女でやってくれる人いないの?やっぱりお堅い職の女って」
「…合格ってなんだよ、合格って、」
「ん?プロモーションだよ?」
「なんの!」
「だから、これらの。
 今全部開けちゃったからやらないと賠償金掛かるし、やれば1本…1万くらいだから結構良いバイトかなって」

 なんだかへたり込んだ芳明を見て、ざまあないと思ったりした、若かりし頃。

 わかっている。
 それでも芳明は理屈を捏ね、「18歳未満は買えもしなければましてやなんだ撮影って、未成年は」という予想通りの返答をしてきたので「もう少しで18じゃん」と駄々を捏ねてやったのだ。

「見ておいてよ、ねぇ」
「…どこの会社だよ!」
「だから違法じゃないんだっつーの。出る頃には18来てんの。決算準備やらなんやらと夜も?忙しいようで気にしてないだろうけど」
「…高校生なんだぞ、お前。出回ったらな、一生」
「サイトのクリック式の動画なんで大丈夫です」

 除菌シートで玩具を拭きながらと息を吐く。少しは羞恥もあったのだ。
 自分の座る場所にタオルを敷いて体育座りをし、「久しぶりだなぁ」と楕円のスイッチを入れる。

 目を反らしていた芳明に「使い方わかれば、これなら女の子も喜ぶんじゃない?」と自虐的に言いながらわざと「ん…ちょっと強いな」だのなんだの煽ってやったけれど、後半は俺を見ながら怒りか何か、涙目で立ち上がり、側に手を付いた。

 歯を、食い縛っていた。

「…ふふ、」

 下着を脱ぎ、染みない除菌シートで部位を拭ってローションを使い、棒も使う。
 自分も余裕がなくなった頃、芳明はソファに食い込ませていた片手を離し、俺の顔に触れ「ユキ、」と震える声で呼んだ。

 多分俺はその時、冷めた目で芳明を見上げたんだ。

「そうじゃなかった、そうじゃなかったんだよ、」
「それ」

 側で乱雑に転がっていたオナホを指してローションも渡し、嫌味ったらしく笑顔で「俺だと思って」と芳明へ促した。

 側で、芳明の片手がみしっと音を立てる。
 睨むように俺を見た芳明はイライラしたようにそのオナホを取り、俺のすぐ側で自慰を始めたけれど。

「そうじゃなかったんだよ、」

 譫言を吐く芳明がキスをしてきた瞬間、俺は射精したのを覚えている。

 ふっと、凭れるように抱き締めてきた芳明は女物の香水を纏わせ「好きだよ、」と苦しそうに言った。

 わかっていた。本当は。

「…好きなんだよ、ユキ、」

 半泣きの状態でそう言う芳明の気持ちも。

 露骨に夜は遅くなり、女物の香水を僅かに匂わせて帰ってくる芳明に、俺はただ「
?」と…。

 あれ。

「ユキ、おーい」

 少し焦ったような芳明の声に、目が覚めた。

「………」

 当たり前に勃っていたが、布団の中だ。
 芳明が顔を覗かせ「アラーム鳴ってる、電話も」と肩を叩いてきたのでふとケータイを見た。

 9:38。2件の着信。

「………ヤバッ!」

 着信相手を確認した。
 9:05 平中レイア、9:24 眞田リーダー。

 完璧に寝坊をしてしまった。

 反射で眞田さんに折り返し「もしもし眞田さん!」と食い気味に行けば「西賀くん、今平中くんがロケ地…パンダ池に向かったから!」と報告が来た。

「わかりました直行します!ほん……すみません!」

 焦りながらそれなりに整え、ばっと着替えれば「あーユキ、」と芳明が呼ぶのについ「何!?」と強めに言ってしまったが、芳明は弁当袋を見せてきた。

「夕飯残ってたから一応」
「………あ、」

 ぽんっとその場、ベッドサイドに置いた芳明はすっとウォークインに来て「おはよう」とキスをしてきた。

「…うん、おはよ……」
「昨日は忙しかったのか、具合は大丈夫か」
「うん…」

 芳明が離れ、再び急いで着替えながらも「ありがと」と礼を言う。

「まぁ、非番だったもんなー」

 ゆったりとソファに腰かけた芳明はテレビを着け俺を見、トントンと隣を叩いたその前にはコーヒー牛乳が置かれていた。
 多分、温度調節をしてくれたのだ。

「ゆっくり急いで、いってらっしゃい」

 有り難くそれをイッキ飲みして歯を磨き弁当を持ってすぐに「行ってきます!」と家を出た。

 夢を見るくらいには浅い眠りだったのに、なんでアラームに気付かなかったんだろう。久しぶりにあの時の夢を見た。

 憂鬱だなぁ…、早く行って謝らなければ、皆様に。

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