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「…こんな形でごめんね、でも」

 寧ろ長下には、主演男優賞を送りたい気分だ。

「いや、ありがとうございます。冷静な人がいてよかった」
「ホントはアイフォン、既にバキバキだったから…まぁちょっと動作とか確認する間もなかったから壊れてるかもしれないけど…だから、いいよ、俺のは後で。心配だと思うし」
「…ん〜〜、いや、いいよ。もしちゃんと動いても投げた事に変わりはないから「バキバキになりました」って言っちゃえ。
 大丈夫、取り敢えず警視庁まで送るから…じゃぁ、あとは任せてもいいかな?」
「…はい、大丈夫です」
「多分、武田さんのそれで一発通るってか、逃亡したなこいつは」

 長下が向かいのデカイ車を指し「…一応いるよ」と言った。

「現行犯か…」
「なんならマジで俺らはただここにいて、パト待とうか?したら一気に引き継ぎ出来る?」
「…悪いねぇ。
 あ、あと言わなかったけどドラマ観てます」
「あ、ありがとうございます。なら、すみませんねぇ…」
「ウチのが観てたからさ…。ぶっちゃけ、役者可哀想だなって出来だよね。最後くっついたまま?」
「言っちゃうと、そうです。すっげぇつまんなかったっしょ!」
「…はは、まぁ、内容はね〜…」
「まぁ演者が一番わかってっからね。
 西賀さん、ではよろしくです。ホントなんも出来なくて申し訳ない」

 頭を下げる二人に「ありがとうございます。受け取りました」と芳明は頭を下げた。

 きっとこの子は、平中ならやってくれるだろうと踏んだのだと思う。アイドル、全然聴かないけれど、聴いてみようかなと「あとでCD頂戴」と言ってみた。

 にこっと笑った主役くんは「監督のやってる間、サインも書いといてあげる」と言ってくれた。

 結局監督は出てこなかったので、問答無用でパトカーを呼び、その場は任せて春雪の病院に向かった。

 少し遅くなったが、病院で「西賀春雪の…養父です」と言えばあっさりと看護師に案内された。

 確か、前回「夫」と言ったら色々書類提示を要請されてしまったのだ。その場で混乱して警察手帳も出してしまったせいでカオスな雰囲気が漂い、結局面会が遅れてしまった。

 でも今回はありか、と一応手帳を見せてみたが、話しは恐らく平中レイアが通してくれたのだろう。然して驚いた雰囲気もなくすんなりと待合室の椅子まで案内される。

 平中は、そこで待っていてくれた。

「あ」

 目が合うと平中はお辞儀をして「もうすぐ事務所の上司も来ますが…まずは奥さん?はいま頭撮ってるらしいです」と伝えてくれた。

 奥さん……。

 その一言でふと、「君、じゃあ間男の自覚あり?」とつい、春雪の肩にあった痕を思い出し言いそうになったが、まずは落ち着き「大方聞いた、わざわざごめんね」と大人の対応をしておく。

「…こっちも下手すりゃ上司か同僚かが来るかもしれないんだ。身内案件って手を付けられなくて」
「あぁ、そうなんだ」
「まぁ今は監督詰め中だろうから…けど、わからないな。取り敢えず巻き込んですまない。ここがカオスになったらごめん」
「…いちおー会社的な感じだと、傷害罪でいけたらなって言ってましたよと、カオスになる前にちらっと言っときます」
「あ、なるほど。そこまでしてくれんだ。
 俺も出して来たところだった、ナガシタくんの器物破損と一緒に。じゃ、完璧死んだなあの監督。傷害罪2枚と器物破損1ま」
「…待って、長嶋さんのこと?」

 てんてんてん、と考え「あ」とついつい声が出た。

「…まぁ、いいんですけど…立花さんとかにもじゃあ、あんたは」
「そうだねぇ、事後報告というか判断が下ったら知る感じかな。
 いやぁウチの、かっこよかったよねぇ、終わったら褒めよ、キスしたろ」

 何も言えなくなった平中に、朝から思ってたが、そのわりに自意識過剰な子じゃないんだよなぁと、「カオスになる前に言っとくね」と芳明は言った。

「今回、君も立派だったよ。安心して。
 ただまぁ、私情をズバッと一個ね。
 大体は性と愛って繋がってるからさ、ユキの中では違うだけで。俺もその大体に当てはまるから、次君がユキと浮気…性交渉をしたらちょっと殺しちゃうかもしれないけれど」

 あまりにあっさり芳明がぶち込んだせいか、平中は「は?」と、唖然とした表情だと…感じただけ、芳明は下を見ながらやはり淡々と「本当はね、」と言葉が詰まり、指輪をくるくる弄る。

 互いに妙な間。

「俺は養子縁組になっているだけだし、ユキにとって何が幸せかなって俯瞰している予定だったけどほら、指輪。ダメだったみたいなんだ」

 それを聞く平中はふと寂しい顔をしたが、芳明はそれを見ていない。

「なんか、飛んでっちゃいそうで嫌だなって思っちゃったんだよ。そう考えるくらいには好きで愛してんだよね」
「それ、俺に言うんじゃなくて…」
「はは、ユキももしかして似たようなこと言ってた?ならごめんね。あまり人に考えさせることじゃないよね」

 …やっぱり、そうか。
 そう言われれば考えてしまう天の邪鬼な自分。

 ふっと顔をあげ横目で見ると、平中と目が合った。
 どうも、複雑な表情をしてくれるんだなと、芳明は少し表情を緩めた。

 そのタイミングで看護師が「検査が終わりました、結果が出るまでもう少々お待ちください」と言い、去って行く。

「…たまに考えるんだ、起きると。どうしよう、いま隣で冷たくなってたらって。
 でも、俺のが10も年上だしさ、どっちかって言うと俺の方が早くそうなる予定じゃん?
 だからユキよりちょっとだけ長く生きなきゃなんないなって。だって、ユキはきっと…。まぁ、もうこれはどうしようもないんだよね」

 牽制でも自慢でもなんでもなかった。

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